第6話 温泉と湯煙の中で・・・

美春さんの提案により、コラボ配信を行った3人で旅館の温泉に入ることになってしまった。

この旅館の温泉はダンジョンの拡張機能にある回復の泉の効果を薄めたものであり、ケガや病気などをある程度和らげる効能がある。

本来の回復の泉は触るだけでも全ての傷と病を癒すことが出来るが、ダンジョンの奥地にしか存在しないため、高レベルの探索者ですら滅多にお目にかかれない。

そのため一瓶でも地上に持ち帰ることさえ出来れば、数億円で売り払うことも出来る。

あまりに強力な効能から盗まれないように、回復の泉の効果を薄める必要があった。


とまぁこの温泉が出来た経緯を考えているうちに、いつの間にか旅館の脱衣所についてしまった。

僕はロッカーに着くと、出来るだけ周りを見ないように急いで服を脱いだ。

そのまま温泉に向かおうとすると、由香里に後ろから手を掴まれてしまった。


「待ってユリア、まだ私たちが服を脱いでないでしょ?」


「いや、さすがに女性の裸を見るわけには・・・」


「別にいいでしょ?ユリアはもう女の子なんだから」


いくら体が女の子でも、心はまだ男の子のつもりだ。

そんな状態で故意とはいえ、女性の裸を見るには罪悪感がある。


「いい加減慣れといた方がいいよ?この先ユリアは女の子として生きていかなくちゃいけないんだし」


由香里の言葉を聞いて、ある意味気付かされた部分はある。

これから僕は晴彦ではなく、ユリアとして生きていかなくてはいけない。

今はまだ幼い体だが、これから徐々にこの体も成長していくだろう。

その時、今のように現実から目を背けていては、せっかく生き返った意味も無くなってしまう。

僕はその思いを胸に抱きながら、2人が服を脱ぐのを待つことにした。


「ぶふ!」


この時ほど数分前の自分を殴りたいと思ったことはない。

タオルで前は隠しているが、由香里も美春さんも大人の女性らしい肉付きのきれいな体系をしている。

由香里とは養護施設で何度か一緒にお風呂に入ったことはあるが、それも小学生の時だ。

あの時とは体の成長具合も全く異なっていて、直視することが出来なかった。

何よりやばいのが美春さんだった。

以前から服の上からでも胸が大きいことは薄々感づいていたが、実際に見ると迫力が違ってくる。

緊張したまま下を向いていると、心配した声色で美春さんが話しかけてきた。


「ユリアちゃん大丈夫?」


「だ、大丈夫です・・・」


ぐ!ダメだ!近づいたら余計に迫力が・・・!

あまりに刺激が強すぎるあまり動けないでいると、由香里が何故か助け舟を出してくれた。


「二人とも早く体を洗って温泉に入らないと風邪を引くよ」


良かった!今は少しずつ寒さが目立ち始めた秋の10月。

いくら探索者といえど、風邪には抗うことは出来ない。

ようやく美春さんと離れられると安心し、シャワーがある場所へ近づくと由香里が声をかけてきた。


「あ!ユリアは久しぶりに私が洗ってあげる」


「え!?」


「あ!ずるい!私がユリアちゃんを洗うんだからね!」


「そう?じゃあ二人で洗ってあげようか」


由香里さん!?さすがにそれはまずいんじゃないですか!?

温泉に入るだけならまだ身体接触はないため、何とか我慢できる。

でも体を洗われるとなれば話は別だ。

少なからず体のどこかが触れてしまうことになる。


「いやぁ、自分で洗えるから大丈夫・・・」


「幼馴染からの厚意は正直に受けるものだよ?」


「うん!私も一人っ子だったからもし妹がいたらこうして一緒にお風呂に入って、洗ってあげることに憧れがあったんだぁ」


邪な考えを持っている由香里と違って、美春さんの純粋なまなざしに抗うことは出来なかった。


「かゆいところはありませんか?」


「だ、大丈夫です・・・」


「うわぁ、ユリアの髪って本当にきれいだね、肌もきめ細かいし」


現在美春さんに髪を、由香里に背中を共同で洗われている。

僕の髪は腰まで長いため、普段の生活でも洗うのは大変だ。

最初のうちは適当に済ませようかと考えたこともあったが、せっかく可愛らしい容姿を無駄にするのももったいないと思ってしまったのである。

それから動画サイトで髪のお手入れの仕方を勉強しているうちに、髪だけでなく肌もきれいにしたくなってしまった。

今ではダンジョンで稼いだお金で、美春さんよりも大量の美容品を揃えてしまった。


「というかこのシャンプー結構高い奴だよね」


「そうですね、このシャンプーが一番髪に馴染むので、普段からよく使っています」


「これは美容品に関してはユリアちゃんに聞いた方が良さそうだね」


「分かりました、今度おすすめの化粧品を教えます」


その後は化粧品の話題で盛り上がったおかげで、無事に体を洗い終えることが出来た。


「では先に温泉に入りますね」


「えぇ・・・せっかくならユリアちゃんにも洗ってほしいな」


「うん、せっかくだから今日はユリアに洗ってほしい」


「わ、分かりました・・・」


そしてあまりに緊張しすぎたせいで二人の背中を洗い終えたところで、鼻血が噴き出してしまった。

さすがに由香里もやりすぎたと判断したのか、前は洗わなくていいと言ってくれた。

良かった、もしあのまま前も洗っていたら出血多量で死んでいただろう。


「ふわぁ、いいお湯だね・・・」


「そうですね」


この温泉は濁り湯なだけあって、体のシルエットすら見えない。

そのため一度入ってしまえば、もう緊張することはないのだ。


「ユリア、前から聞いてみたかったんだけど、もう前の姿に未練は無い?」


「そうだな・・・無いと言ったら噓になるかな」


由香里がこの質問をしたいとはなんとなく理解できる。

誰だってある日姿が変わってしまったら、困惑するものだ。

ましてや性別まで変わるとなると、以前の生活とは大きく変化してしまうだろう。

世の中には性別を変更した影響でメンタルが崩壊し、自分を傷つけてしまう人もいる。

由香里は変わってしまった僕の心境を心配しているのだろう。


「でも今の生活は楽しいよ?」


「前みたいに弱いままじゃないし、今は美春さんや頼れる人たちも増えたからね」


「そう・・・それなら良かった」


すると急に横から美春さんが抱き着いてきた。


「ちょっと!?美春さん!?」


ぐは!まずい!何がとは言わないが、美春さんの爆弾が肩に・・・!!!

そのまま美春さんを見ると、うずうずと泣き出していた。


「うぐ・・・これからもずっと一緒だよ?ユリアちゃん」


「は、はい!これからも私と美春さんは家族です!」


美春さんは純粋な気持ちで、僕に抱き着いたんだ。

僕だけ緊張して、その厚意を払いのけてしまうのは良くないだろう。

僕も美春さんの頭をなでて、美春さんを持ちつかせた。

すると何故か、近くからハァハァという吐息音が聞こえる。


「ぐへへ、ユリアちゃんの肌スベスベ・・・」


そうだった、この人普段は良い人だけど、幼い少女が絡むと途端に変態になっていまうロリコンだった・・・

その後危うく美春さんに襲われそうになったが、由香里が止めてくれたおかげで僕の貞操は何とか守られた。


今後美春さんとお風呂に入る時は、誰かと居るときでないと入らないようにしようと固く心に誓ったのだった。



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ダンジョン運営は地獄です~TS幼女は最高のダンジョンを目指して奮闘する~ りくりく @rikuriku1225

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