第5話 秘境、アルマ温泉!

アルマとの配信を終えて、数日が経過した。

今日がネロからアルマのダンジョンにDPがもらえなくなる約束の日である。

だが状況は全く変わっていなかった。


「マジで!!!どうしよう!!!」


今日もアルマに性質変化の能力を使用しに来たのだが、なにやらかなり慌てた様子だ。

すると突然アルマにせまられてしまった。


「何があったの?」


「全然DPが増えないの!」


コラボ配信から数日の間で、アルマは自分のチャンネルで何度も配信を行っていた。

アルマのゲームの腕は一般人相手にはそこそこ善戦したが、ガチ勢には連戦連敗である。

アルマのメスガキらしい反応が受けて、ネット上でもそこそこ有名になっていたはずだ。


「ちなみにDPはどのくらい稼いだ?」


「0」


「え?」


「だがら0だって!」


「下僕達が私に会いにくることに満足して、ダンジョンに入る前にすぐ帰っちゃうんだもん!」


「マジか・・・」


ここ数日の間に何人か探索者が訪れていたのは知っていた。

中には一般の人もいて、アルマがまるで観光名物のような扱いになっている。


「探索者がなんでダンジョン内に行かないか分かった?」


「ここが田舎過ぎて、装備を預ける場所が無いって言ってたかも」


「あとは泊まれる場所も無いって」


「なるほど・・・」


探索者は基本パーティで行動する。

さらに探索に必要な装備なども合わせると、どうしてもどこかに荷物を預ける必要がある。

この辺りはダンジョン協会が運営している探索者向けのロッカーや倉庫も無いし、泊まれるところもない。

そうなると必然的にダンジョンを探索することが出来なくなってしまうのだろう。


「せめて泊まれるところだけでも・・・」


「そうだ!」


僕は以前から考えていたダンジョンマスターにしかできない方法を試すことにした。


それから1週間後、密かに進めていた準備がようやく完了した。

ダンジョンの入り口にかけたのれんを外し、待機している探索者に中の様子を披露する。


「ほら、泊まれるところ作ったんだから早く入りなよ♡ザコのげ・ぼ・くさん♡」


「この建物は・・・旅館!?」


探索者は驚いた表情で、立ち尽くしている。

ダンジョンの中に入ると大きな竹やぶが広がっており、近くには立派な旅館が建っていた。

旅館は和風の建物らしく、白を基調とした木造の建物になっている。

そう、これが以前から僕が考えていたダンジョンの観光化である。

ダンジョンには拡張機能が備わっており、今回その機能を使ってアルマのダンジョン内に温泉旅館を作った。

温泉はダンジョンの拡張機能にある回復の泉を温めて使用しており、魔力を消費してケガや病気を和らげることが出来る。


「ここがユリアちゃんとアルマちゃんが共同で作った温泉旅館か・・・」


以前アルマとコラボをしたことに拗ねてしまった美春さんのために、今日は出来上がった旅館でコラボ配信をすることになった。

実はすでに美春さんと義理の姉妹であることが知られており、施設育ちで養子縁組をしたことが泣けるエピソードとしてネット上で話題になっている。


「ユリア、今日は楽しもうね」


今回は由香里も連れてきていて、スペシャルゲストとして配信にも登場する予定だ。


旅館の中に入ると、さっそくインプがスリッパを用意してくれた。


「インプが接客するなんて、すごく新鮮だね!」


この旅館の接客はアルマが新しく召喚できるようになったインプが担当している。

このインプたちは敵意を向けられない限り、人に危害を加えることはない。

そのため一般の人でも、安全に魔物と出会うことができる。


その後インプに連れられて、旅館の個室に案内された。

そして持ってきた小型カメラとマイクを設置して、配信の準備も終わらせる。


「それじゃ、ユリアちゃんさっそく配信をしようか」


「分かりました」


今回配信を行うのは美春さんの個人チャンネルである。

個人とはいえ、美春さんはトップ配信者と呼ばれているためチャンネル登録者は60万人とかなり多い。

この前ようやく10万人に到達した僕とは、まだまだ大きな差があるのだ。


「みんな久しぶり!今日は久しぶりにこっちで配信するよ!」


:美春さんだ!

:個人配信なんて何か月ぶりだ?

:この前の雑談配信が夏ごろだったから、3か月ぶりくらいじゃないかな


「今日は旅館の中から配信しているんだよ」


美春さんは旅館の部屋の内装をカメラに映した。


:めっちゃきれいな部屋!

:オープンしたばっかとか?

:この旅館見たことないかも


「さらに今日は私一人だけじゃなくて、2人も特別なゲストを呼んだよ!」


:二人!?

:コラボを全然しない美春さんが二人も呼んだのか・・・

:一人は幼女で確定だろうな・・・


「一人目は私の大切な妹であるユリアちゃんです!」


「みなのもの初めましてなのじゃ!」


:ユリアちゃんって今話題の妹ちゃんか!

:確か施設育ちだったのを引き取ったんだっけ?

:ええ話や(´;ω;`)

:今日はメスガキじゃなくて、のじゃ口調なのか

:やっぱりユリア様はこっちの口調の方がしっくりくるね

:メスガキユリア様も待ってます!


「みんなも知っての通り、ユリアちゃんは私のたいっ!せつな妹だから手を出さないでね」


「わしは美春の物ではないのだが・・・」


:ひえっ!目が怖すぎ・・・

:さすが探索者の中でも生粋のロリコンなだけはある

:確かにあんなにかわいい妹ができたらこうなるのも分かるかも

:家事も万能でたまに料理を作ってくれるんでしょ?

:何それうらやましすぎる!私もそんな妹欲しかった!

:※実際の妹はそんなことしてくれません


「次のゲストは探索者の間でかなり有名な人を呼んできたよ!」


「カメラはここかな?」


「みんな初めまして、探索者の由香里です」


:おいおいまじかよ・・・

:由香里さん!?

:現役のSランク探索者がなんでこんなところに!?

:これはとんでもないことだぜ・・・

:初配信じゃない!?

:これは関係性が気になる・・・


「美春とはユリアを通じて知り合ったんだ」


「実はユリアとは同じ施設で育っていてね、最近偶然再会したって感じかな」


:ユリアちゃんと由香里さんが幼馴染!?

:そういえばユリアちゃんん実年齢って17歳だっけ

:これはすごいつながりだな・・・


「ユリアとは将来を誓い合った仲なんだよ?将来はアメリカで結婚の約束もしてる」


「ちょっと!?お姉ちゃんを差し置いて、何を言ってるの!?」


:なるほどゆか×ユリか・・・

:これはてぇてぇな・・・

:お姉ちゃん必死過ぎて草

:やっぱみは×ユリでしょ!?

:どちらかというと、美春さんが世話をされてそう・・・

:美春さん忙しすぎてカップ麺ばっかり食べてるから・・・

:昨日もユリアちゃんが料理作ってあげてたね

:ユリアママ・・・

:ユリアちゃんはアルマちゃんの正妻だろぉ!?


「お!今アルマちゃんの話題が出たね」


「今日この旅館に来た理由はアルマちゃんが関係してるんだ!」


「実はこの旅館はダンジョンの中にあって、私たちが最初のお客様なんだよ!」


「その名もアルマ温泉!!アルマちゃんが運営しているダンジョンの中にこの旅館が建っているんだ」


:まじで!?

:ダンジョンが操作出来たらそんなことも出来るのか・・・

:前にユリア様がダンジョン内で一般層向けに何かできるんじゃないかと言ってたけ 

 ど、このことか

:今その旅館にいるけど、マジでダンジョンの中にあるよ?しかも接客はインプがや

 ってた

:うぉぉ!絶対に行ってみたい!


「ちなみにここで働いているインプたちは、人に危害を加えないようになってるから探索者じゃない人も安心して泊まれるよ!」


:大型連休の時に絶対行かなきゃ!

:ついでにダンジョンも探索出来て良さそう

:アルマちゃんのメスガキ具合を堪能しながら、観光も出来るのか・・・


「それじゃ、この3人で質問コーナーを始めるから、コメントにどんどん書いていってね」


その後大量に迫りくる質問に答えながら、配信が進んだ。

質問内容は探索者の中でかなりの有名人である由香里向けの物が多く、質問に答えているうちにあっという間に時間が過ぎていった。


「ひえぇもう3時間も配信していたんだ・・・」


「時間が経つのは早いのじゃ」


「始めて配信したけど結構新鮮な気持ちになった」


:マジ!?

:時間が経つのが早いな・・・

:てか同時接続数10万ってやばすぎでしょ!

:この時間帯だったら配信業界で一番じゃない?

:まだ平日の午前中だもんな



「今日の配信はここまで!またコラボする機会があったら告知するから、楽しみにしててね!」


:さよなら!

:良い配信だった・・・

:またこの3人の絡み見たい!

:今日はゆっくりしてね


配信を終えて、部屋を片付けていると突然美春さんが話しかけてきた。


「ねぇ!ユリアちゃんさっそく温泉に行こうよ!」


「え!?」


美春さんの言葉と共に人生最大のピンチが到来してしまった・・・

3人で旅館に泊まるということは、必然的に一緒に温泉に入ることになってしまう。

いくら体が女の子になっても、まだ男だった時の感覚が多少なりとも残っているのだ。

普段は別々にお風呂に入っているが温泉だとそうはいかない。


その時緊張する僕の傍らで、ひっそりと由香里がほほ笑んでいた。


次回温泉回に続く!!!

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