第44.7話 家を守る者

別視点の話になります。


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部屋には甘ったるい臭いが漂う。

俺はいつも行為中は強い香りで誤魔化す。

きついからだ、吐きそうになる。


「次はいつになりそう?」


高齢の女が話しかけてくる。

俺は返事をしない。

担当者がいるからだ。そいつに任せて部屋を出る。


「お疲れさまです。デイアル様」


半裸の俺を嘗め回すように見てくる。

何も言わず横を通り過ぎた。

声を掛けて来た女は俺が先ほどまで居た部屋へ向かう。

あの女に話をつけにいくのだろう。


女がドアに手を掛ける前に、後ろから胸を鷲掴みにして引き寄せる。

驚きの表情をした顔を俺に向けた。

何か喋りだす前にキスで口を塞ぎ、暴れだすのを足を絡めて止めた。

足掻きが収まってから、耳元に口を近づける。


「あの女を上書きしたい、耐えられないんだ。上手く言いくるめてほしい。終わったら俺の所に来てくれ、いい?」


真っ赤になった女は頷き部屋へ入っていく。これで大丈夫だろう。





「―――そうね、これで絶てるならね。」


「婆をどうにかは……無理そうだな?…レーヴァにはまだ遠いな」


アリオ家は常に金欠になっている。

現当主はレーヴァへ多額の献金をしている。領民への税を重くし全てを捧げている。

いつから俺の家はこうなった?子供の頃に見たのはもっと上品で、こうありたいと思う家だったのに…


亡くなった先代はいつも笑って俺を撫でてくれた。

最初に会った時は怖くて震えてたのに、気づいた時には大人の女性が怖くなくなった。だから、いつも側にいたのに…


ディム叔父さんが売られた。

家のために覚悟を決めて、もう会えないと言って作った笑顔が悲しかった。

それを知った先代は怒り狂った。

叔父さんは隠されていた人だったから…そして亡くなった。


家臣達は既に堕ちていた。

アリオ家は高い服飾技術を持っていた。流行はアリオが作るとまで言われた、そんな家と領地が荒れに荒れている。


母は7人の子供を産んだ。

姉と俺、妹以外は…弟の4人は皆レーヴァへ送られた。子供の頃からより良い教育をさせるためとの事だが…


「レイ姉、好機だ。聞いた話だとアセルス公国がカレア家とやり合う、ウチも軍を出すようレ―ヴァが指令を出してくる。動くのは今だ」


「…だから兵站の費用が大幅に増えている…か、また粉飾でもしてレーヴァに送ったのかと思ったわ、今回は動くのね」


姉は戦場に出る。そして母とその取り巻きを討つ。妹が跡を継ぎ、俺が周りの家に取り入る。覚悟はすでに出来ている。


姉と目を見合わせて小さく笑った。きっと姉は相討つ覚悟だから、何も言わない。

昔に見たディム叔父さんと似た表情をしていた。

姉さんは叔父さんが大好きだったから…


「デイアル様、当主様がお呼びです。」


「ああ…体調が悪いと言って断ってくれる?…俺の言うことを聞いてくれるなら…分かるよね?」


女は分かりやすい。急いで母のもとへ向かいどうにか言いくるめるだろう。


アリオの地には男がほとんどいない、レーヴァへ送られたから。

噂の泉とやらにはまり込んだのだろう、全てを投げ売って。


当主で子沢山の者は非常に少ない。

妊娠してしまうと、その間はマナ量が増えないから。家によっては子を儲けない当主すらいる。近親の子を時期当主に据える事も珍しくない。それが家のために生きるということ。


泉に溺れた母に当主としての能力はない。


『デイアルちゃんは大きくなったら何になりたい?』


先代のあの言葉に俺は何て答えたっけ?


一つだけ言えることは、アリオ家は途絶えさせない、俺がいるかぎり…


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不自由なこの子に救いと夢と ハバタケル @621-620

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