第44.6話 腐らせる者
別視点の話になります。
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「救わなければいけない!違うか?」
「その通りでございます。オーゼス様。」
「すぐにでも―――」
(まただ、思いついた事を後先考えずに声に出す。)
自分に酔っている男の言葉に溜息が出る。
背が高くぽっちゃりとした男が綺麗言を放つ。
連れている金髪の女の子は肯定する。
まるで男の言葉を肯定する為の人形だ。
人形はいつも通りうなずく、その反応に男は満足する。
ここはバリオール城、歴史は古く800年程前に建てられた。
再現が出来ないと言われる程の建築技術を駆使されたこの場所は城の中央に一本のとても大きな木が天井を貫通して生えている。
マヌアートの木と呼ばれるこの木は果実を付けて富を与える。
唯一私がこの家の中で誇れる物だ。
そして王になる為に今日も周りを巻き込む男達。
それを眺める私…変わらない日々に嫌気がさす。
王国は腐っている。
【デウスの尾】というアーティファクト。
女を怖がらなくなり、快楽に身を委ねる事が出来ると伝えられている。
王だけが継承出来る物の為、男達は争い続ける。
私の知る限り、腹違いの兄弟姉妹達は50人を超える。
それだけの女と関係を持てる男と言うのは王以外知らない。
間違いなくアーティファクトのおかげだろう。
そして王は表に出てこない。今日も子を成す為に快楽に耽るのだろう。
男達はアーティファクトを求める。他がどうなろうとも一つの欲を満たすために。
そして、王の娘もまた必死に争う。
より王子に貢献する為に、バリオール家に従う他家の女達も、全てはレ―ヴァ教の【ベルビーの泉】に招かれるため。
王の居ない席の横で当然の様に居座る女、聖女。
こいつの目に留まれば招待されるかもしれない、泉に。
取り巻きの女達は王子を使ってレ―ヴァ教に近づこうとする。
何も思わないのだろうか?
先祖が起こした家、守り続けた誓い、受け継いだ教えと財、その全てを切り売りしながら我欲を追い続ける事に。
レ―ヴァ教に近づきすぎた者達には遺すものがあるのだろうか?
「私が救いに参ります。兄上はお待ちいただければ…そういえばカマイラ家に敗走したのでしたね?荷が重いでしょう。カレア家には私が。」
「マウト!アセルスに相当肩入れをしてカレアに手も出なかったでのではなかったか?竜結晶とその娘の息吹に吹き飛ばされてな!…早くアセルスに支援した安くない金は取り立てなくても良いのか?王家が侮られてしまうが…いや、マウトがな。」
「では兄上には見せて頂きたい!勝利を!…私の記憶には幼き頃の駆けっこしか覚えていないが、今ではそれも私の勝ちでしょう。歳の離れた私になんと大人げないと思っていましたからね。ふふふっ!」
「おや?見ていない?いや、自身の成果を語るのは恥ずかしい。そんな事をしなくとも見えているだろうに、一度医者を勧める。…その体調だ、無理せず兄に任せたらどうだ?なぁ、プリマ?」
「はい、オーゼス様の仰る通りです。」
(口を開けば罵り合い、これが時期王候補の会話?)
また溜息が漏れる。人形は肯定する。
そして、何よりも気持ち悪いと感じるのは…
(この人形も前のも、全部金髪で赤目の子…雰囲気も私に似た子達…)
乗り越えてなどいない、苦い記憶がまた頭をよぎる。
「止めて、オーゼス兄さま。お願い、なんで。」
『ハァ…ハァ…、心配いらない、さ。私に、王に委ねろ。』
「誰か!キャア!兄さま、いやだ!誰か!」
『騒ぐな!ハァ…ハァ、さあ、こ!待て!』
(…!あぁ、最悪。何で思い出すかな…)
兄に襲われそうになった時、私の力は目覚めた。そして知った、私は生贄にされかけたのだと。部屋の前には護衛が居た。中の事に気づいても何もしなかった。
兄の悲鳴で入ってきたのだから、本当に気持ち悪い。
「リール様、大丈夫でしょうか?体調が思わしくない…」「問題ないわ、心配いらない。」
(心配?じゃあ、あの時助けに来れたでしょ?あぁ気持ち悪い。)
王国は腐っている。
かつて建国に大きく貢献した英雄を追いやった。
同じく貢献してくれた花の家も枯らそうとする。
…恩を全て仇で返す、腐っている。
私も腐っている。何もせずにただ眺めているのだから、待っているのだから。
王国を誰かが壊すのを、私もまた同じく王国を腐らせている。
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