2.5章 空に

第44.5話 レ―ヴァの体現者

別視点の話になります。


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「――以上です。」


「そう…」


カレアより遠く離れた地にレ―ヴァ教の聖地は存在する。


報告を聞きながら手慰みに何かの魔術具を弄る女がいた。

ナウア様と呼ばれていた。


「…先ほどから何を?」


「あぁ、これ?友達の遺品だよ。」


「…大変申し訳ございません。」


「いいよ。被ってもらったからね、この子の分まで幸せになるの。」


「…?…ちなみに、どんな魔術具なのですか?」


「う、ん?…えぇっと………確か飲み水が出るやつ、だったね。」


18歳になった彼女は教皇より大聖女就任の内示を受けている。


レーヴァ教は聖女、大聖女、教皇の順に位が高くなる。


そして彼女は教皇の娘だった。



***


――ァ!――ア!――


(本当に気持ち悪いな。)


レ―ヴァ教には大聖女により貢献大と評された家にのみ伝えられる【ベルビーの泉】と呼ばれる場所がある。

女性のあらゆる欲が叶うとされており、現在は溺れた者が喘ぎ声を上げていた。


初めて目にした時、全てが気持ち悪くなった。世の中に一切の興味もなくなり、なにも面白くなくなった。


(本当に汚い!臭い!気持ち悪い…思い出せ、あの笑顔を…)


そう、私は奇跡に出会ったから。

あの笑顔に…だから…



昔の私は当時大聖女だった母よりカレア家に入るよう命令が下った。

特に夢や希望もなかったので受け入れた。能力は非常に高く、魔法も持っていた。出来るならカレアを潰すようにとまで言われていた。


用意された身分を使い、潜入した。

能力の高さから大事な子を任せるという大任をカレア当主より仰せつかった。

…そして、奇跡に出会った。


まだ幼く、小さなその子は見た事のない黒い髪と輝く青い瞳を持っていた。

光を浴びながらこちらに振り向く。

最初の顔合わせ…だった。


『ぼくは…ラ―――』


側に居るのが楽しかった。

我儘で、少しでも分からない事があれば走って逃げだした。

おねしょして泣き出した時に秘密にしますと言うと抱き着きながらお礼を言われた。


初めて…暖かい気持ちになった。この気持ちに名前はあるのだろうか?

きっと私だけの感情に違いない、そう思った。



だけど…


私の体つきが丸みを帯びるたびに目を合わせてくれなくなった。

気づかれないように近づいても必ず距離を取られる。


なによりも…


『坊ちゃま、ダメです。』

『そんなー、きらいだし。じゃあ―――が食べて!』

『…今回だけですよ。』

『―――大好き!』


私に向けない笑顔がそこにあった。

いつもその姿を見せられて、私は…




『おまえ達はロシエの侍女を任せる』


当主より仰せつかった。

離れなければいけなくなった…

何故だろう、その事ばかりを考えていた。



ある日―――が倒れた。

代わりで侍女に戻ってきた。

ドアの前に控えて―――様から距離を取る。

そうしなければ、いけないから…


―――を看病していた女達の話声がする。


『何故そんな物を?』

『生理を遅らせるためよ。』

『―――様のためって事?』

『そうしないと、お側にいれなかったんじゃない?』


…思い付かなかった、負けた、初めてそう感じた。



***


『ヤダァ!にーに!』


…は?血に濡れた―――様が居た。

口と鼻からも血が流れてきた。

顔は青白く変色し、呼吸音がおかしい。

…マナ枯渇だ。


一瞬、頭が真っ白になった。これが虚無というものかと知った。

そして何をすればいいのか分からない焦燥感、焦りを知った。

(今の私に出来るか?やるしかない、魔法…を使う。)


―――ダァ!ヤダァ!―――


…うるさい、もし―――様が亡くなれば挽肉にしてやる…






『にーには、どうなったの?ねぇ――はしってるの?』


「…貴女が殺そうとしたのです、私には理解できません。自分が死ねば良かったのでは?…私が―――様なら、復讐をしますね。」


『…………』


妹だから側に居れる?何もせず喚いているだけなのに?二度と妹面をするな…




***


《カレア・ウェネは空間のマナに干渉し空気を弾く魔法であると推察します。》

《カレア・ロシエはマナを固め切り裂く様な魔法を使いますが、未だ詳細は不明です。》

現状のカレア家は――――――――――――

―――以上の事から計画を前倒しにする事を提案します。




レ―ヴァ信者は至る所に居る。

報告は済ませた、後は待つだけ。   


―――には勝てない、そう思ってしまっている。

私の想いが追い付くよりも、貴女の想いの方が早くなる。

勝てないのなら…






『知らない、そんなのは違う。』

『残念だよ。まさかこんな近くに、間諜がいたなんて…』

『違う!お願い!ねぇ!』


…ごめんね、大丈夫だから。私があなたの分まで幸せになるから。





***


「―――家の動きはどのよういたしましょう?」


「適当でいいよ。」


「では、――――ル家は…」「前線へ。」


「はい、そのように。あと、【無敵】が聖女の推薦を求めていますが…」


「…素行が悪いので、ネク酒飲み放題とどっちがいいか聞いてみて?多分酒だから。」


「はい…」


(誰が、あいつを聖女にするか。―――を殺したのは褒めてあげるけど、あの人を傷つけたのは許せない。)


部下への指示を終わらせて伸びをする。

そして自分の望みに近づいている事に楽しさを感じていた。


私はもうすぐ力を手に入れる。

今よりももっと強い力を、だから…


(カレアの呪縛から解放します………だから一緒に海に行きましょう、ラエル様。)









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