第44話 傭兵団最後の日

「来たか。…すまない、ラエル。」


呼ばれたのは夜中。

カンテラのような魔術光を持って俺とセナは来た。


花の都市カレアの郊内にリエルラの花畑と呼ばれる場所がある。

愛を誓いあう、永遠にいつまでも一緒になれる場だと。

古くは男女の割合も半々で大変人気があったらしい。

今は男が訪れることがない、伝承があるだけの地。

それでも花を枯らさない様にカレア家は管理をしている。


【リエルラの子を空の申し子を見守る地】

立札にはそう書いてあった。



皆が一堂に会していた。俺と団長…メルメの戦いを肴に酒を飲みながら。

賭けをしていた。ヴァルが元締めらしい。

セナも連れてきている。ヴァルは露骨に距離を取っていた。



「ラエル、誰にも言わなかった事、大変感謝する。…少しだけ薄情だとも思ったがな、私を止めないのかと。少し憧れていたんだ、男性に引き留められる事に。…私の好きな物語の女性はそうして結ばれていた。…笑うな。」


「意外でした、そんな事思ってたなんて。…でも不義理は出来ないと思いました。俺に自信と戦い方、行くべき道を示してくれたのは貴女だから。…貴女の道の邪魔は出来ないと思ったんです。」


俺は薄情者だ。団長達の事をカレア家に報告すれば、拘束できた。相手の戦力を削げて被害を減らすことが出来た。なのにしなかった。自分の周りの人以外はそこまで大切に思えなかった。知らない女性は不快感しか感じないからかもしれない。


「…なら話してもいいな。―――」

ルアワール家には体の弱い長女が当主候補で、表に出ない次女、そして自分。最後に直系のヴァルがいた。長女の側近は優秀でその人が実質の仕切りだったと。任務も回してもらっていたらしい。


急に戻る指示があったのは、次女が皆を殺して当主に勝手に座ったから。

アセルス家の力を借りて。

家臣達は逃げてきた。

立ち行かなくなった次女は団長に助けを求めた。


団長は無視しようとしたが、皆の家族達も人質の形でアセルス家に出向させられていた。

だから、覚悟を決めた。家の為ではなく家に働く者達の為にと。

苦い顔になりながらもどこか清々しさを感じる。


俺は自分の為で、団長は皆の為だった。




***


「ルールは、ラ…」「どちらかが一撃入れたらで。」


「…そうか、そうしよう。ラエル、さあ訓練の時間だ。」



いつも通り開始の合図はない。

今まで野次を飛ばしていた外野は静かになった。

俺はアシエの結晶を外してセナに渡していた。

傭兵団で培った経験だけで立ち合いたかったから。



「ハァッ!」

かけ声と共に団長は突っ込んでくる。

マナが漲っているのを感覚は捉えている。


俺はカンテラのマナタイトを外して光を絶った。

急な変化に対応が出来ないだろうと思ったから、でも関係なく突撃してくる。


「クッ!」

予定が狂い手に持ったマナタイトを団長へ投げた。

それを手で払いながら肉薄してきた。

俺はカンテラを団長へ向けて目を瞑る。


『ラエルなら普通に魔術具を使えるようになるかもね。凄いかも。』


マナを操作してカンテラへ流した。

辺り一面を強い閃光が走る。


「グウッ!」

団長の声と少しのマナの乱れを感じた。

それだけで位置は分かる。俺を見失いながらも突っ込んできた団長を躱して…


「…そこまで、ラエルの勝ち。」


背中へ蹴りを入れた。




***

「強くなったな。…あの頃のラエルは思い出せない位にな。」


「俺に勝ったしな、ラエル、あの時蹴られた腹が未だ痛むんだ。…前みたいにストレッチしよう、な。」


「最悪、ラエルのせいで私の男の基準が上がりっぱなし、どうしよう。」


「せんぱい、オリナスの部屋に行ってたんでしょ?なんで来ないんですか!」


「全部上げたからね、ね。あとはラエルをもらいに来るね。良いよね!ね!」


「…まあウチが当分側にいないけど、また来るわ。たまたま団長に勝っただけで弱いしな。」


メルメは穏やかな顔をして昔を振り返っていた。


ポリーは最初の印象から仲良くなれないと思ったのに、気づいたらよく俺の側で笑っていた。


アナベルのおかげで俺は綺麗になった。男性観は人それぞれだと思う。


マキラは俺の前では小動物のような雰囲気だが、切羽詰まった時とか俺がいないと思って気を抜いてるときはよく殺す、うっぜと言っている。あと俺より年上なのに後輩キャラきつい。


オリナスは一番印象が変わった人だ。こんなにも見る目がないのかと落ち込んだ事もあった。そして本当世話になった。


ヴァルは相手にするのがしんどい、まぁ大好きだが。



―――いえ―――いい!―――


この騒がしさも今日で最後だ。

セナがヴァルの元へ向かい尻尾で叩いている。

何となく分かる『またな!』って伝えてるのが、ヴァルはビビっているが。


「さあ、本当に最後だこれで傭兵団は…ノワール傭兵団は解散する。ただ、仲間の証は持っておいて欲しい。ノワールがあった証として。」


メルメが締めくくる。

俺は本邸を抜け出してきている為、長居できない。


ただ、ずっとこの景色を眺め続けた。


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2章 ノワール傭兵団 完

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