第43話 団長メルメ
会合から数日が経った。
俺は魔士の護衛を連れて下町に来ていた。
男を隠す為に相変わらずの女装で。
俺の女姿を見た母とウィーネは泣きながら抱きしめてきた。訳が分からず恐怖を感じた。
セナは俺の部屋でゴロゴロしている。大きな鏡があるのだが、その前でポーズをとっている。転がり腹を上に向け甘えた声を上げる。
…狼だよね。
俺に見られた事に気づくとマナを漲らせて突撃してきた。
下町は活気だっていた。俺はこの空気を浴びて気分転換したかったのだが、女性が多くマナの威圧感を感じて後悔した。
気が滅入っている時は耐えられない。
帰ろうとした時に後ろから呼び止められた。
知っている声だった。
「ラエル、久しぶりだな。元気だったか?」
団長がそこに居た、まだエルシャ公国に居る予定だったはず。
覚悟を決めたような顔をして俺の目を見てきた。
…嫌な空気を感じる。
「…ノワール傭兵団は解散する事となった。私はルアワール家と共に参戦する。…アセルス家側につくことになる。」
「………はぁ?どういう事です…?」
「すまない、説明出来る事じゃないんだ。…ただ家を守る、それが私の生き方なんだ。…すまん。」
団長は頑なに何も答えない。
俺はショックで頭が回らない、何も分からなくなった。その場を後にした。
「明日、皆が集まる。その時にまたここへ来て欲しい。ラエルき――。」
後ろで声が響く。
気づけば部屋に居て膝に腕を組んで床に座っていた。セナも隣で黙って座っている。
抱きしめながら涙を流した。セナはそのまま寄り沿ってくれた。
***
「んだ、その顔…おい、聞いてんのか!…なぁ、調子狂うだろうが。んな顔すんな。」
「………ヴァルはどうする?…いや、聞くだけ無駄か。」
「…あぁ?興味ねぇってこ…」「分かるよ、どれだけ一緒だったと思ってる?アシエの次にずっと居たんだよ。言わなくても分かる。」
「………他の女だすなよ」
場には皆が集まっていた。そして顔を見れば分かる。それ位一緒に居たから、命を預け合ったから…皆笑っていた。団長、いやメルメと一緒に戦場へ行く気だと分かった。
距離を感じる。…違う、皆が距離を置いてくれている。
「何でという顔だな、事情は話せないが…そうだな、アセルス家に借りがあった、だからだ。」
「カレア家もネア家も黙っていないですよ。俺がこの事を告げると皆拘束されます。…何で話したんです?馬鹿か!カレアは本気だ!…貴女が一番知っているだろ…」
「知っているさ。お前と…アシエの覚悟を見てきたから、な。不義理はしたくない。…もしラエルに止められるなら、それもいいかもな…」
「………」
――逃げなさいよ――
―――多分、勝つと思う―――
――――お前は避難しとけよ――――
皆に悲壮感はない。俺一人がショックを受けているだけだ。
みんなも大事だから傷ついて欲しくないと思っている。だけど、どうにもできない。
あの頃の無力感を再び感じていた。
「昨日ラエルにも話した通りだ。傭兵団は解散する。改めて今まで本当にありがとう。
…私は参戦する。皆…馬鹿だな、ようやく自由なんだぞ。やめておけよ。」
皆は何も言わない。今まで通りメルメに付いて行くだけ…
拠点は売り払ったようだ。私物は全部持ってきていた。
受けとった荷物には日用品とアシエのポーチ、いつかの梟の仮面が入っていた。
「ラエル、ひょっこだったのに綺麗になったね。お姉さん嬉しいよ。ほいっ、どうぞ。」
前よりも綺麗になってアシエの結晶が返ってきた。
腕輪の全体が常に光ってる。マナが自然と流れ続けているかのように。
オリナスも覚悟した顔だった。
皆が俺に目を向けていた。静かな穏やかな表情をしている。…あのポリーさえも。
「団長、いえメルメ…いつ出発するんですか?」
「明後日にでもな。…ラエル明日の夜に会わないか?最後の…訓練だ。」
***
返ってきた俺はカンテラのような光を放つ魔術具を持って庭園に居る。
セナと静かに夜空を見上げていた。
「どうしたのって、眩しっ!何?何なの。」
俺に声をかけてきた姉に光を当てる。マナタイトを使用せずに魔術具を使っていた為光の強弱も自由に調整できた。
横に来た姉を威嚇しだしたセナ。
俺はゆっくりと背中を撫でて落ち着かせる。
「ラエル、何かあった?私に話してみなさい。解決してあげるわ。全部吹き飛ばせばいいんでしょ?」
相変わらずの脳筋だ。母もそうだが当主は全て吹き飛ばす力が必要なのもしれない。力こそパワーだ。
俺には一番足りないものだ。
「姉さん、ごめん。当主にはなれない。けど、カレアに戻るよ。俺も…」
皆の覚悟を見た。いつも誰かの覚悟に突き動かされて行動しているだけだ。
俺も覚悟を決める。昔したはずだ、アシエを失ったあの時に。
この地を守る覚悟を。
その為に、出来る事を。
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