第42話 エルシャ

会合場所はカレアの都市内で行われる。

非合法な集まりの為、少人数でだ。


相手方は3名、こちらも母姉俺の3名だ。

門を潜って下町に出る。本当に花だらけでいい匂いが漂う。


どう見ても旅館にしか見えない場所に入っていく。

そして完全に和室にしか見えない部屋へ案内される。


俺達が入ってすぐ相手方も部屋へ入ってきた。


緑の髪をした成人女性と俺と同年代の女性、そして赤髪赤目の女性が入ってきた。

母や姉と同じ色の赤髪の女性は独特の雰囲気を醸し出していた。

マナ量は母より少なく感じる。すらっとしていて綺麗なのだが佇まいに隙が無い、驚くほど一つ一つの動作の繋ぎが綺麗だ、流れているように。


「…最強、オウナ殿が来られるとは…」


母が思わず呟いた言葉に、昔本で見た海獣討伐者を思い出した。

(この人が、最強。佇まいも容姿も雰囲気も綺麗な気がする。)


緑髪の成人女性は名乗る。

「エルシャ公国から参りました。エルシャ・マウナと申します。」




***


対面した3人は俺を見て非常に驚いていた。


母にカレアの覚悟を見ましたと言い出した。まだ始まってないのだが。

自己紹介をして会合は始まった。スムーズに進み要求はない。


カレア家の希望は援助してもらう事、もしくは援助を匂わせるように他家への牽制に立ち回りをしてもらう事だ。


話し合いの末、牽制を行ってもらう事となった。


あっさりと決まり、その後は雑談となった。



「ラエル様はネア家に居られたと聞いております。竜に遭遇した時の、印象をお聞きしたいのですが、どのように感じられましたか?」


「被害者も多いので不謹慎かもしれないですが、力強く、美しかったです。」


「………恐ろしい、などの負の感情はどうでしたか?」


「あまり感じなかったですかね?…すみません時間が経っているので印象が少し薄れているかもしれないです。」


俺の言葉に恐らく護衛として来ていた最強の魔法使いが話しかけて来た。


「お美しいですが、何かされていますか?髪はどのように手入れされているのでしょうか?」


急に身だしなみの質問が来て、頭が回らなくなった。

マウナ様は答えなくて結構ですと話を切った。



無事に会合は終了したと思った。最後に小さな紙が飛んできた。

マウナ様は口元に人差し指を立てて静かにとジェスチャーしてきた、その紙を呼んでとも。紙には《夜抜け出せませんか、お話があります。》とあり希望の場所と大体の時間が記されていた。


母も姉も気づいてはいない。伝えるわけにはいかないと思った。

これを理由に話が流れるわけにはいかないと。


本邸に戻った後はセナにお願いをした。一緒に来てくれと。




***


「すまないね、来てもらって。おお、魔獣も連れてきたんだ。凄いね魔獣がいるとはいえ男の子なのに本当に来れたんだ。カレアといえど無理だと思っていたのに。」


最初から、労いなのか蔑みなのか分からない会話から始まった。

単純に俺を見たかったらしい。ただのラエルとしての俺を。


「君は自分を自由だと思っているかな?…微妙そうだね、他の男を見た事があるかな?その扱いを。」


男について語り始めた。傭兵の任務の中で男は見てきている。大体は良くない事になっていたが、男だし強く生きろと思った。

とりとめのない話ばかりだった。


「君にとって大事な物は何だろう?」


「仲間と家です。」


「君の事はそれなりに調べた、家は何を指しているんだ?」


「………」


「何故答えられない?傭兵団か?カレア家か?どちらもという答えは無い。」


「…なんでそんな事を…」


「君は目を逸らさずにしっかりと会話してくれる。気持ちいい男性だ。おせっかいだよ。考えた方がいい、逃げないでね。」


そのまま調べた事を伝えてくる。


傭兵団がネア家周辺を活動拠点としたのは常にネア家の補助があった。鍛錬などを自由にできたのもカレア家が人を周辺に配置して俺を見守っていた。


少なくない労力が俺の自由にはかかっていた。

その事を何も知らないのはカレア家やネア家に可哀そうだと言ってきた。


「…何でそんな事を教えるんです。」


「ここまで我欲を殺して家の誓いを守り続ける人達を尊敬しているから、私の理想の生き方をネア家の血筋の人達は受け継ぎ続けてる。その恩恵を受けているのに知らないのは流石に失礼だよ。」


「………」


「君が無事なのは後ろ盾があるから、最初から君程の安全な生き方の男はいない。本当に君が望まれている事は…分かるだろう、その歳なら。でもそれを望まない、ネア家はね。…あれだよ、君の事嫌いじゃないから言っているんだ。私は家が大事、次に大事なのは義理だ。…君はどう思う。」













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