第41話 当主

予想はしていたが、こんなにもストレートに切り出されるとは思わなかった。


そのまま母は話を続けた。

俺は女性を怖がらなくなった、強くなり、カレアの立派な人間になったと。

姉に代わり当主になってもらいたい、そう告げられた。


固まってしまった俺は姉に視線を向けた。


当主になる為に頑張ってきたのだから急な当主変更の話に不満しかないと思った。

何故かもじもじしながら上目遣いでこちらを伺っている。


無理だと答えた。俺はカレア家の事をよく知らない、姉が当主であるべきだと。

母は黒髪がカレアの証なのだと言ってくる。

私達が補助をするからと。

うやむやになったまま用意された部屋へ案内される。


ベットで横になる俺の側でセナが丸くなっている。居てくれるだけですごく心強い。

…セナ、お前ならどうする?




***


「これはお願いなのだが、予定中の会合に一緒に出てもらえないか?」


母からの依頼だった。エルシャ家との話し合いがあるようだ。

カレアは完全にレ―ヴァ教を排除すると、そう語り出した。

ただ、王家が黙ってはいない。現在の王家はレ―ヴァ教にどっぷりだ。

もはや依存していると言ってもいい。


俺の存在は漏れていた。一掃しなければ更なる襲撃に遭う。

ネア家に預けられていたのはカレアの地での争いに巻き込まないためだったと話してくれた。

もうこの辺りは安全だと、存在が判明した俺を隠す必要は無くなった。


「今までラエルには不自由させてきた。…自由になれるかと言われると難しい…が、これからは堂々としても大丈夫になる。その綺麗な黒髪を隠す必要もなくなる。」


「………」


「だから、戻って来て欲しい。…バネア母さんから聞いているだろうが、真のカレアはお前だけだ、ラエル。私達は命の限りラエルの盾となり剣となる。」


「………」


「母様だけじゃないわ、私もいる。だから心配いらないの。言ったでしょ、ずっと守るってね。もちろん表に立たなくてもいいの。…私に守らせてよ、ラエル。…お願い。」


「…………もう少しだけ考えさせて欲しい。会合は出るよ。知らないところで守られてたのは、何となく分かってた。カレアとして一緒に行くさ。」


もうすぐ戦いが起こる、そんな予感がしている。その為に皆は動いてる。

カレア家が無くなったら、綺麗な花だらけの都市も、庭園もあの屋敷も無くなるかもしれない。それだけは許してはいけない。


答えを先延ばしにしたが決意は固まっていた。





***


「いいじゃない!似合ってる!本当に美人になったわね!…いいのよ、ラエル。姉さんは全て受け止めてあげるから、劣情を催しても構わないのよ。…いつも唸っているわね。」


俺の前に出て伏せをし出したセナを眺めながら、試着をしている。


ホワイトシルクという素材で出来たタキシード風の服を着ていた。

この素材は永続的にマナが流れ続けているらしく。キラキラと光って見えるだけでなく防御性能にも秀でている。





「…ラエルには伝えないといけない事があるの。実は――」


現在カレア家には俺が居た時よりも人が少ない。

カレアの地でレ―ヴァ教が活発化したのは内部情報が漏れていたためだった。

疑わしきは罰すとして大半を解雇した。その中で明らかに関与があったものは処分したとの事。

今まで以上に身辺調査を行い雇い入れたのが今のカレアに居る人達だと。


「ごめんなさいラエル。私達、私の落ち度よ。言い訳しないわ。…カレアに仇なした者達には一切容赦しない。私に任せて、全て吹き飛ばすわ。必ず。」


加担したのは王家とアセルス家、完全にカレアを潰しに来ていると、舐めていると鋭い光を宿した目をして姉が毅然とした態度で語る。俺の知らない当主としての姿がそこにあった。

…少しだけ格好良かった。


俺の試着姿を確認しに母がやってきた。


「似合うな。ソフィと…ガドリの、子だな。誇り高いカレアの子だ。ラエルその恰好で明日、会合に参加してもらう。いいな。」


今までも母が俺を褒める事はあった。ただ、あやされている感じがしていた。

今は子としてではなく、男として褒められた気がして嬉しかった。

俺を呼ぶほどに重要なのだろう。明日に向けての立ち回り方を確認していく。


恐らくエルシャ側からの要望があるだろうと母は予想していた。


俺の来訪を希望するだろうと。

カレア家とエルシャ家は元々仲が良かった。

現在のエルシャ家は海獣による被害、レ―ヴァ教の参入で求心力が弱まっていると他家や民衆に思われている。

黒髪のカレアが来ることで繋がりを示せる、レ―ヴァ教への牽制にもなると。


そう言った話がでても驚かず冷静な表情でいて欲しいと言われた。


明日の会合の打ち合わせも終わった所で尋ねてみた。


「ガドリって父だと思うのですが、母様から見てどんな人だったんですか?」


「慌て者で、調子乗りだな。ただ芯があった。そして何よりもソフィ…ラエルの母を愛していた。………私の青春だったやつだな。」


母は俺を見た後に姉を見る。…少しだけ涙を浮かべた。






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