第40話 帰郷

綺麗な庭園だった。

この景色が以前と違うのかすら分からない。


下を向いたままアシエの手に引かれていたから…


「……行きましょう。」


ウィーネの一言で我に返り歩き出した。

俺の醸し出す空気が皆を困らせている。

セナは尻尾を絡ませて俺と並走してくれていた。


俺よりよっぽど出来たやつだと無意識に頭へ手を伸ばしてしまった。

そしていつも通り吹き飛ばされる。


セナは無意識だったのか困惑していた。

魔士の人達とウィーネがマナを漲らせ始める。


しんみりしていたのに一触即発の場に早変わりした。


「………すいません。多分…俺の屁に反応したんだと…思います。」


皆の冷めた目が突き刺さった。

セナは嬉しそうに尻尾を振り回している。




***


「…本当に大きくなった。」


「だ…ラエル…大きくなったのね。」



本邸に迎えられ母と姉が再開を祝ってくれた。

姉は俺を忘れていたようだ。

これだから嫌いなんだと思い出した。


「母様は変わらず綺麗なままですね。姉さんは見た目が変わったか。…ロシエは?」


俺の言葉に少し空気が悪くなった。

後ろで立っていたウィーネが屋敷に居りますと言ってきた。

何でも管理者になって忙しいらしい。


会いに行くとは言えなかった。まだ足を踏み入れる為の覚悟が足りないから。


「ロシエ様はきっとお会いになられます。その時はラエル様の思う通りにしてあげて下さい。」


「……?はい…?」







「へぇー……まぁ美人になったわね。背も伸びたし。…この距離でも大丈夫?きつかったらいいなさい。…あとその魔獣は、私に唸ってない?」


「姉さんも普通に綺麗になったね、面白くないけど。胸も凄いことになってるね。あぁ、セナは俺の気持ちに合わせた行動をしてくれてるから。」


「…えっ、私が綺麗すぎて…って事なの。ラエルは…我慢できない感じね。」


「母様、教育し直さなくてもいいんですか?下々の価値観と違いすぎて暴動が起きないでしょうか?」


「昔の私よりマナも魔法も強いからな、全て吹き飛ばすさ。何の心配もいらないぞ。」


「………」


初めて本邸で母と話をした部屋に居る。


後ろにはウィーネが控えていて、後頭部にチリチリとした視線を感じる。居心地が悪い。


唸るセナを側に呼んで落ち着かせていた。

ふと振り返るとなぜかウィーネが声を押し殺して泣いている。

この人はいつも恐怖を感じさせてくる。


オリナスに貰った、羽に似た杖を手首に巻き付けている。

腕輪のようで、非常に見栄えも良く回転させて手に持つとそのままサークルを行える。


本当にオリナスには頭が上がらない思いだ。

感謝を告げようとする度にマナを漲らせてくるのでちゃんとした礼も出来てない。

最近はセナがよく威嚇をするようになった。

…仲間だよね?


「どうしたの、ずっと手なんか握って?…待って、ね。その…私も、久しぶりに会ってびっくりしたのよ。ラエルがあまりにも昔と違いすぎるから…さっき綺麗って言ってくれたじゃない、だから…嬉しかったの。胸も―――」


恐ろしい程にサークルがスムーズだ。しかもマナタイトよりも瑠璃の、便…『瑠璃結晶』で行うと吸い込まれるように線が刻まれる。

見た目があまりにも綺麗なこれを便とは言えない。


しきりに鼻を動かしているセナに近づけてみる。二回叩かれた。

この威力は…捨てて、撫でろ…かな、あってる?


姉さんと手を繋いだ辺りで後ろに控えていたウィーネのマナが大きく乱れた。俺が休む為の用意をしてくると言って部屋を出た。


出てすぐの所でずっと止まっている。マナが乱れている為、分かってしまうのだが、怖い。


母も一足先に席を外した。当主なので忙しいのだと思う。


喋り続ける姉の言葉を聞き流しながら、流れを止めないように頷き、聞いてる振りをする。


女性を静かにするには褒める事と経験上理解したが、姉を褒めたくないので話が終わるまで手を握っていた。







カレア家の食卓では花を食べる。屋敷でも出されていたがネア家やノワール傭兵団では無かった。甘みが強い物が多く、果物の様に感じる。カレアの食べ物なのだと思う。


食事は3人で食べた。この時もロシエはいない。それ程忙しいのだろうか?


食後にカレア家に呼ばれた要件を聞いた。


「ラエル、カレアに戻りなさい。」














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る