第39話 しろいおはな
カレア家には家紋がある。蛇の様な生き物に花が覆っている、花はユリに非常に似ている。
中庭にしかない白い花だった。
――これは?
―――坊ちゃま、あいのおはなですよ。
――アシエみたいなおはなだね。
―――坊ちゃまへあげますよ。
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「皆は別の場所で待機させている。収集がつかなくなるのでな。ラエル、長い間ご家族は大変心配をしていた。…お前にも思うところは沢山あるだろう。だが、安心させてあげるんだ。
…言うまでもない事だが生きている内にしか言えない事がある。お前が一番理解している事だろ。行ってこい。」
「団長、行ってきます。また、戻ってきます。」
拠点前で二人別れの挨拶を交わす。昨日は皆とそれぞれ話したが、普通に数か月すれば帰ってくると冷静になり、阿保らしくなってしまった。
ヴァルが枕を持って部屋を訪ねてきた時はセナがしっかり対応していた。
皆が今生の別れの様に話すので数か月後会えるのではというと白けた空気になった。
もう見たくはなかったケンタロスが馬車を牽引して待機していた。
馬車には見覚えのある紋章が入っている。
扉が開き、記憶と相違ない人物が出てきた。
「ラエル様、………大き…く、ご立派になられましたね。参りましょうか。」
「久しぶりです。お変わりなく綺麗ですね、ウィーネ。」
「…………どうぞ、此方へ。」
カマイラからカレア家までは数日の旅になるとの事だった。
セナは外で並走している。不満があるのか、しきりにマナを揺らすのだが、流石に飯の用意は出来ないと言うと顔面への往復尻尾びんたで許してくれた。
「…もしやと思ったのですが、ラエル様は私どものマナを恐れていないのですか。」
数名の魔士の方に護衛してもらいながらの旅になっている。
皆が気を使ってなるべく距離を取ろうとするのだが、気にせずに接近する俺にどうすればいいのか日夜話し合っていたらしい。しびれを切らしてウィーネが聞いてきた。
俺の事情をカレア家がどれだけ知っているか分からない為、問題ないとだけ答えた。魔獣と一緒に居るのも慣れたからだと。
…実のところ殺意や敵意、急激なマナの高まりが無ければ耐えれる程度になった。揺らぎや潜在的なマナ量などを一々感じ取ってしまう為、無視は出来ないのだが。
夜は村に泊まるが、基本的にセナは入れない為小屋で留守番をする。運んでくれているケンタロスを威嚇しだすので、頑張ってブラッシングで機嫌を取る。護衛の人達はさすがカレアの子と崇めだした。居心地が悪い。
出発して8日後にカレア家へ帰ってきた。
門を潜って領地に入る。至る所に花がありカレアの地では必ず屋根やベランダに花を設ける義務があるとの事。破ると罰則があると。花の都市だった。
出ていくときは一切外が分からなかったのと魔士のラナにビビッていた為、外を確認する事も無かったがこんなに綺麗な場所だったのかと。
アシエをこの地で眠らせてあげたかったと思った。
そのまま進んで見慣れた場所に近づく。
セナは静かに並走する。
馬車が止まり扉が開いた。
どうしようもなく切なくなった。
―――坊ちゃま―――
静かにセナが寄り添ってくれる。初めて尻尾を巻き付けてきた。
左手に少し小さな建物が見える。十分大きいが俺の…僕の全てだった場所。
――アシエ、少しだけ旅をしたよ。あの頃よりずっと恰好良くなって声も変わりだした。でも、まだ変わっていない物があった。
…やっぱり君を愛してる。
ウィーネと護衛の人達は馬車の扉を出ただけの俺に何も言わない。
気持ちは薄れると思っていた。
ただ残ったままだった。
側に君がいないから熱が引いただけだった。
来たくはなかった。でも来てよかった。
にじむ視界に、ふと思い出す情景。
だけど膝は付かなかった。
しっかりと立てていた。
あの頃よりもずっと強くなっていた。
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