第38話 しばしの別れ
「…ラエル、そのさ。セナがずっと唸ってんだわ。やめさせてくんね。ヴィもさ、ビビッてんだよ。ラエルが近づくと露骨に暴れんだわ、マジ頼む。」
俺は唸るセナの背中を思い切り撫でる。良くやったいい子だと言いながら。セナはヴァルを威嚇しながらも尻尾で叩いてくる。
最近は叩かれすぎて、その威力でどういう気分か分かるようになった。強めのマナを流しながら叩いてくる。撫でる腕が大きく弾かれた…調子乗んなって思ってるのかな?
笑顔になった俺は全力で音を殺してブラシを取り出す。威嚇しながらも俺がブラシを持ったことに気づいた。尻尾が震えだす。
恐らく本当に僅かな音を聞き取ったのだ。そうだろセナ。
急いでヴァルを追い払うように俺の前に出て伏せをし出した。これがセナの攻撃体勢だ。セナは必ず仲間の前に出るのだ。
ヴァルはドン引きしながら帰っていく。
労いにブラッシングを丁寧にした。頭だけは触らないように。
「よくやるねぇ。ヴァルがキレてたぜ。何か枕を叩きまくってたけど。……?前にヴァルの部屋にいった時は枕が一個しかなかったのに、さっき二個あったんだよ。何で?ねえ?」
「知らんけど。どう?出来そう?結晶に傷入ってない?」
「全然大丈夫だよ。これソーラ結晶だね。流石、いいの持ってる。あれだよね普通にマナ流せるようにするだけでいいよね?」
「ほんと頼む。オリナスだけが頼りなんだ。それは命の次に大事だから。オリナスにしか預けられない。」
「………」
腕輪が壊れてしまった。長く着けていたために皮が劣化して切れた。幸い結晶は大事無かったので新しく留め具を用意しようとしていた。側にいたオリナスがいいのあるよと教えてくれたので預けている。
***
「今回は少し遠出になる、エルシャ公国だ。緊急の任務だ。悪いが強制になる。内容については話せない、秘匿性を有するからだ。あとラエル、後で来てくれ。以上だ。」
恐らく俺は参加できないのだろう。雰囲気で分かった。周りも察して去り際に肩を叩いていく。あとポリーは雰囲気にかこつけて抱きしめてきた。
マナの奔流が起こる。そう感じる位に皆がマナを漲らせている。まるで戦場にいるかのように。…ポリーが連れていかれる。
「ラエルすまないが連れて行けない。そういう決まりなんだ。ネア家とのな。それとカレア家に顔を見せるように言われている。ウェネ様の事で関係があるとな。」
「………はい。」
「そんな泣きそうな顔をしないでくれ。…頼む、お前の泣き顔は見たくない。…すまないが二月はかかる。土産を期待していてくれ。」
明日カレア家の人間が迎えに来るようだ。セナは一緒に連れて行って欲しいと言われた。俺以外では手に負えなくなったと。…少し助かる。
団長はどのように迎えに来るかを言わなかった。
「ねぇ、ラエル。頼まれたやつ、結晶ね。預かったままでいいかな?」
「いや、返して欲しい。…何かあるのか?」
「…絶対返すから。信じて、ね。お願い。…ラエル。」
オリナスがこんなに折れなかったのは初めてだった。
いつも俺の側にいたアシエが感じられなくなる事が怖い。…いや、少しだけ踏みださないといけない。
下を向いて考えていた俺が上を向いた時、何故か上目使いで服の胸部分をはだけさせたオリナスがいた。
――ドッ――
「必ず返して欲しい。お願いだ。あと無事で帰ってきて。頼むよ。」
――ドン――
「うん、絶対だから、ね。お姉さん嘘つかない。」
――ドドッ――
「ああ、俺も―――ドドド――うっせえな!」
マナの揺れる気配を感じた。飯の合図だ。
合図したの今だよね?違うのセナ?
ドアを器用に開けてセナが現れた。オリナスの部屋の前でじっとしている。
どうやって開けたのか驚きながらも溜息をついた。飯の用意の為、部屋を出る。
振り返ると感情の消えたオリナスがいた。
何も言わずドアを閉める。アシエの加護を使用していないのにドアの隙間のオリナスがセナを見つめる姿がスローに見えた。
セナと並んで歩く。尻尾を振り回して叩いてくる。
この威力は水浴びの要求だと感じて飯の前に行水をした。
合っていたようで機嫌が良くなり、俺に近づくヴァルを追いかけ回した。
――ラエル止めろ、ぶっ殺すぞ――
吠えて逃げるのを眺めて楽しんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます