第37話 未来

セナの甘噛みで起こされた。…普通に痛いが。

ネーナさんが朝食を用意してくれたので頂く。

俺は屋敷へ呼ばれているようなのでお世話になったお礼を述べて向かう事にした。


フード付きの黒いマントを深く被り歩く。

俺の前ではセナが周囲を威嚇しながら練り歩いていた。通行人は皆怖がり、自警団や魔士の人に囲まれ始めた。

…頼むから大人しくしてほしい。


「ラエル?大きくなったな!…魔士イアナが案内させていただきます。」


周囲に大きく宣言してくれたおかげで人が捌けて行った。


それなのに、なぜかセナは遠吠えをした。勝ち誇る様に。再び周囲の人が騒めきだした。

イアナに睨まれて、セナは大きく尻尾を振る。再び自警団が来た。

…俺はセナを押しながら屋敷へ向かう。



***


「…大きくなったね、もうボンって言えない。…本当に綺麗になった。カレアの名に相応しい人になりましたね。」


久しぶりに会ったバネア様は涙を浮かべる。

俺としてはカレアの名を捨てたつもりなので気まずい。イアナも下を向いた。



賊から逃れた仲間達は拠点に戻り全員を集めて、襲われた場所を虱潰しに回ったらしい。鬼気迫るように見つけた賊を捕獲して情報を吐かせる。情報が無ければ即殺していたとの事。


ラナに対しても殺意を向けるほどだったようで、俺の無事を説明し皆を収めてくれた。

今は拠点で休んでいるようだ。明日にでも仲間が迎えに来ると言われたのでゆっくりとさせてもらう事にした。女性に囲まれていない日常は久しぶりなのでとても気が楽になる。



欠伸をしているセナを鑑定した。生き物ならば鑑定出来るみたいだが、少し見づらい。対人の加護なのかもしれないと思った。


魔法陣は確認できなかった。というか見せてもらえなかった。

マナの流れが頭に向かっている為、恐らく頭にあるが触れない。アナベルに教わったアクセサリー作りをして過ごした。




***


「…二度とすんな!次はウチがお前を殺すから、いいな!つか、ラエルがいねぇからウチが雑用したぞ。当分やれよ!返事!」


「ごめんなさい、私のせいで先輩が死にそうになって…腹立ってきた!ヴァルさん、昨日のやつ残ってますか?ちょっと十回位殺したいんですけど!…先輩もやります?あはっ!」


どうしようか?相変わらずヴァルには手が出そうになるし、マキラはちょっとクレイジー過ぎて苦笑いが止まらない。こいつらのテンションが分からなかったので、とりあえず褒めた。経験上だが女性は褒めると静かになる。俺は十三歳という人生の経験でその事を学んだ。



「二人ともごめん、いつも庇われてるから格好つけたかった。…二人の為に死ぬ男がいてもいいだろ?それ位、いい女だと思っている。」


「「………」」


荒れた雰囲気は収まり、静かになる。

そして安心した。まだヴァルに効果があった事を。


そうして拠点に帰る。ヴァルが手綱を渡してくるがセナが妨害する。

乗り心地はヴィの方がいいので、躱しながら受け取った。

小さく吠えるセナにコンビ解消を告げて帰路につく。


途中の村で一泊して拠点に帰ってきた。

村に着くまでの間、セナが事毎に突撃してきた。村の中には入れない為ヴィと小屋で過ごしてもらっていると常に威嚇していた。


流石に次の日はセナに乗って帰った。

いつの間にこんなに好かれたのか?可愛く感じたので頭を撫でようとすると振り落とされた。




***


「ラエル、よくやった。が、もう二度とするな。…本来はカレア家に戻ってもらうべきなんだ。……どうする?」


団長は真剣に語り始めた。茶化せる雰囲気ではなかった。

俺の傭兵団に入る条件をネア家と決めていた。


無理をさせない事、死なせない事、なるべく意思を尊重する事。そして報告義務もあったと言った。最初はすぐに折れると思ったらしい。だが、そうはならずに気づけば鍛えるのが楽しくなった。男なのに周りを恐れず、囮まで勤めた。


私の心はぐちゃぐちゃだと語られる。


「…団長は俺が邪魔でしょうか?俺はノワール傭兵団が好きです。ここが俺の家です。」


「居て欲しい、ずっとな。だが、お前は男で、それも…いい男になった。皆が欲しがるほどの、な。難しいんだ。…考えておいてくれないか?ラエル。」


俺は団長室を後にする。迷惑を掛けたくはない。ただカレアには戻る気もない。

この環境が一番自由なのだろう。ここを出たら俺はどうなるのか?

…海を見に行こうか。そして、その後はどうしようか…


俺を見つけてセナが近寄ってくる。前よりも更に小さなマナの揺らぎを感じた。

飯の合図を読み取って用意に向かう。並んで歩くセナの尻尾が大きく揺れて俺を何度も叩く。


考えは脇に置いて今の事をする。


そうして俺は先から逃げた。



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