流転
夢月七海
流転
うん。〇〇君から告白されたよ。でも、断っちゃった。
もったいないって言われてもね……。〇〇君の女子人気の高さは知っているけれど……。
わたしには、まだ好きな人がいる、からかな? いや、確かに疑問形だけど。
だって、前世の夫に会っちゃったら、また好きな気持ちが再熱するじゃない。
うん。前世の、夫。えー、疑ってるの? これ、親友にしか話せないんだけど。
別に、中二病じゃないよ。そんなキャラでもないでしょ、わたし。あ、でも、再会したのは去年だったから、リアルに中二か……。
塾の帰りで、夜だったの。わたしの通っている塾、駅前にあるでしょ? そこのタクシー乗り場。
今日もタクシー乗り場が並んでいるなぁと思っていたら、列の中の一人が、ふっとこちらを振り返って。背が高くて、真っ白な髪の外国の人だったから、目立っていたけれど、わたしを見たその顔に、どきりとしてしまって。
瞳が、真っ赤だったの……。ただ、それ以上に、初めて見るはずなのに、知っている顔だと思った。
夫だって、はっきりそう分かったの。理由とか根拠は何にもないけれど、鮮明に。
相手の方も驚いた顔をして、列から外れると、わたしの前に来てくれた。
それで、気まずそうに首の後ろを書きながら、「久しぶり」って……。ああ、わたしのこと、覚えていてくれたって、嬉しくて微笑んじゃった。
すぐ近くのファミレスに入ったわ。テキトーに注文した後、彼から、「今は何してる?」って言われたから、今の自分の名前とか、家族のこととか、学校生活のこととか簡単に話して。
……今思うと、知らない男の人に、何を話しているんだって言われそうだけどね。あの時はとにかく自分のことを知ってほしかったし、彼が、優しく頷いてくれるだけで、幸せだったから、どうでも良かったの。
そのうち、わたしもいろいろ思い出して。前世で夫と出会った瞬間のこととか。あの時はお互いに一目惚れだったなぁとか。結婚して、子供が出来てからの、平穏な毎日とかを。
彼ね、スパゲティを食べるのがすごく下手だったの。口元に必ずソースをつけて。それもそのまんまで、わたしが笑いながらナプキンで拭ってあげたら、恥ずかしそうに目を伏せるのも、変わらなくて……。
そうやって、わたしのことを色々話したけれど、彼は自分のことをほとんど話さなかった。まあ、それは夫婦だった時からだけどね。いつもわたしには言えない秘密を抱えていて、その陰のある姿も、好きだったかもしれない……。
彼と一緒にいられる幸せを、そんな風にかみしめていたけれど、急に彼がビクッ! って背中をのけぞらせたの。丁度、テレビで罰ゲームで電気のビリビリを食らった人みたいに。
わたしが「どうしたの⁉」って聞いたら、「そろそろ自由時間が終わりだから、帰らないといけない」って、彼が背中をさすりながら返してね。そういえば、タクシーに乗ろうとしていたところだったのに、呼び止めてごめんねって謝ったら、「君と話す以上に素敵な用事はないさ」って返されちゃってね。内心「キャー」だったよ。
まあ、そうは言っても、彼はここから離れないといけない。それでも名残惜しくて、「次はいつ会える?」って聞いたら、彼が、寂しそうにだけど、微笑んで……。
「俺の時間はあと六百年くらいあるんだ。その間に、きっとまた会える」って言ってね。多分、その長い時間は、いい意味ではなくて、罰とか、そういうものだと感じたの。でも、もちろん口にしなかった。
「じゃあ、約束の証として、指切りげんまんをしよう」ってわたしは提案した。彼は、それを知らなかったけれど、やり方を教えて、「ウソついたら針千本飲まーす」って言ったら、「物騒だな」って笑ってくれたのが、嬉しかった。
そのまま、駅前で、笑顔で彼と別れたけれど、正直、寂しかったなぁ。わたしはこれから何回も生まれ変わるだろけれど、彼はずっと、「彼」のままでいるんだなぁって。それが、罰の一つなんだろうなぁって。
……もちろん、いつまでも彼に固執するのは、彼自身も望んでいないと思うよ? ただ、彼以上に、好きな人が出来るまでは、もう少しだけ、この気持ちを抱えていたいの……。
流転 夢月七海 @yumetuki-773
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