第三話③

「怖いものではないのよ。寂しがりやなの。」


「さびしがり。」


「凛、説明してごらんなさい。」




 凛お姉さまは小さく返事をすると、大巫女様の横へと移動した。年上の女の人に静かに見つめられるという経験はあまりないので、少し緊張してしまう。目をそらすのも失礼かと思いそのまま見つめ返すと、凛お姉さまが少しほほ笑んで話し始めた。




「わたしたちの村は、この、神様のおかげで生活できているのは知っている?」


「ええと、かみさまのおかげであめがふったり、やさいをつくるためのつちがよいものになったりする、みたいな。」


「その程度で問題ないわ。…カミサマはね、それをお友達のためにやっているのよ。」


「おともだち?」


「そう。…わたしたち巫女がするのは、第一に神様とお友達になること。次に、自分では身に余ると思ったら代わりのお友達を紹介すること。」




 …つまるところ、進んでカミサマの生贄になるか、生贄を見つけてくるかのどちらかってことか。




「神様とお友達になるために私たちは修行をしているの。その中心になる人が大巫女様。でも大巫女様はお友達になってしまうとこの神社がやっていけなくなってしまうから、その弟子がお友達になるの。…この前は、私の力不足で村の人が代わりにお友達になってくれたのだけれど。」


「…それが、ちちとははですか。」


「…あら、わかっているのね。」




 探りをいれるつもりで聞いてみたが、どうやらこれに気が付いても大きな問題はなかったようだった。彼女はそのまま話を続ける。まるで、「お友達になること」がなんでもないことのように。




「神様のお友達になるのは、基本的には巫女の中でも力がある者。今この場だったら、大巫女様を除くとわたしね。今、巫女の才能があるのは私と貴方だけだもの。私と貴方になにかあった場合には、村の中心の家から代表者を出すの。…あの時期は全員が修行中の身だったのよ。立派に果たしてくださったわ。」


「…えっと、もしかして、いま、ほかのみこさまはいらっしゃらないのですか…?」




 そう尋ねると、大巫女様が口を開く。




「巫女の才能は、とてもまれなものなの。七つの儀式でその力を確認するのよ。…ここ数年は女の子では誰も反応しなかった。凛の次に反応した女の子は、あなた。凛より上の巫女見習いはみなすでに神様の友達としての職務に当たっています。」




 なんていやな環境なんだ。凛お姉さまは謎に誇らしげにしているが、要するに彼女のあと、私の代になるまでは村の中から探し出す必要があるということではないか。夏祭りは毎年あるし、なんなら今年だってすぐそこだ。ここで凛お姉様がいなくなってしまったとして、私の番になるまでに何人の人間が奥の湖に消えていくのだろうか。気が遠くなってくらくらした。




「でも、今年はついにわたしも神様の元にいけることになっているのよ。だから、今年のお友達には困らないの。」




 嬉しそうに笑うのが、ひどく不気味に見える。それはたぶん、夢の結果自分の倫理観だとか死生観だとかが変わってしまったからだ。何も知らない状況の私であれば、彼女をうらやむこともあっただろう。




「凛のように、いずれはあなたも神様のもとへ行くことになります。その時に困ることがないよう、今日からの修練を頑張りなさい。」




 それだけ言うと、さっと大巫女様が立ち上がる。凛お姉さまも一緒にどこかへと移動するようだ。おそらく修練とやらの一環だろう。わたしもとりあえず立ち上がり、見様見真似で彼女たちのあとをついていった。


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巫女様物語 ~因習村で死亡フラグをぶった切れ!~ @yukiji0609

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