婚約者が大嫌い。

移動式の繭

.

婚約者が大嫌い。



勝ちたくて、負けたくなくて、でも勝てなくて、いつだってあいつは余裕そうな表情で笑う。


「お前は俺に勝てないよ」



学生の時からずっと一緒で、あいつには1回も勝てたことがない。社会人になって、営業成績がでる度にイライラする。何も努力してません、みたいな顔で毎回あっさりと1番を持っていく。

いつもからかわれて、亮介なんかと婚約者だなんて心底嫌になる。


かわいいとか好きだとか本当は嫌いなくせによく言うよね。私を困らせるのがそんなに楽しい?

彼を婚約者として紹介されてから10年。幾度となく彼に伝えてきた。付き合ってるわけじゃないんだから、他の女性と付き合っても構わないって。


それで婚約破棄になっても、また他の相手を親が決めるだけだって。

それなのに最近の私はおかしい。彼が女性と話しているからって不機嫌になるなんて…。

私の知らない話をしていると嫌。笑顔を見せるのが嫌。優しい声色で会話するのが嫌。


嫉妬した、なんて認めたくないからこう言うの。

「亮介、私ねやっぱりあんたと結婚する。他の女と幸せに、なんて許さない。

あんたなんか嫌いな私と結婚して不幸になればいいの」

「…なるほどね、」

全てを見透かしているようにクスクス笑いながらこちらを見る亮介。


「私が、あんたの人生めちゃくちゃにしてやるんだから。ずっとそばにいて。」

果たし状のつもりで言葉を投げかける。

しかし、亮介は何を思ったのか優しく微笑んで私の頬を摘む。

「ふーん、それは…お前にしてはいい案じゃない?

いいよ、めちゃくちゃにして」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

婚約者が大嫌い。 移動式の繭 @tashima_soujiki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る