第53話 チリント王国
トオルはひさしぶりに神獣の力を借りずに飛行魔法でチリント王国に来た。本当に細長い国だ。幅はおおよそ100㎞南北に1000km伸びている。桜の開花前線とかが有りそうな国だな。
国境沿いに高さ30mの壁が延々と延びている。さながら万里の長城だ。この国も歴史が長く約1万年前に建国されたということを予め聞いてきた。
壁の厚さは10m、馬車が通れるように土が固められている。恐らく土魔法で固めたのだろう。これで武器や兵士を運ぶ事ができる。100mごとに物見塔が作られていてドラゴンさえ弾くと言う結界が張られている。これならマルテウス王国も、迂闊には攻められないだろう。
それにしてもこんな大規模工事、1万年前にやったとしたら凄いことだ。多分何十年、何百年もかけて完成させたのだと思うけれど。
入場門を見つけた。国の中央から南にずれた所に有った。
トオルは門から離れた所に着地して歩いて入場門に向かった。
門番の人に冒険者カードを見せると丁寧に対応してくれた。
「お待ちしておりましたトオル様。国王陛下の王城に馬車でお送りいたします。今しばらくお待ちください」
門番さんの控え室でお茶を出されて送迎馬車を待っていた。
迎えの馬車が来た。のどかな田舎道を走っているようだ。時折見える畑は貧弱な小麦がまばらに生えている。肥料分が無いのか?品種の問題か?そのどっちもなのか?
女神に愛された国と言う割にはあまりに貧弱な寵愛ぶりだ。
本当に愛されているのか?
トオルの心中に女神に代わって面倒みてやろうじゃないかという思いが湧いて来た。
公国君主の質素なお屋敷の前で国王トレーナー陛下が直々に出迎えてくださった。
王城の中も質素だった。自分も国民と同様の暮らしをしているのだと言う。
トレーナー陛下の言われるに、ここ数年で一気に農作物の出来が悪くなったのだとか。
その日のうちに現状を把握したくて近くの畑に赴き、土壌の様子、植物の実態を調査した。
畑を2面借りて土を耕し肥料を混ぜ込み、日本産の小麦と、ジャガイモを植え付けた。魔法で水やりして時間魔法で芽が出るまで進め、暗くなったので後は翌日のことにした。
翌朝起きてすぐ昨日の畑の様子を見に行くと昨日出た芽は、昨日より10㎝以上成長していた。時間促進魔法は掛けていない、自力で成長していたのだ。トオルは思わず鑑定を掛けてみた。
【100年毎の堆肥施肥がされていなかったので肥料成分が枯渇していた。100毎の堆肥施肥についてはトレーナー家に書物が伝承されていたはず。調査を要する】
だった。すぐさまトレーナー陛下に確認したが、覚えが無いと言う。
執事のカインさんが呼ばれた。
「確かにその様な書物を見た覚えが有ります。先代様が幼少の頃の旦那様に「後30年経てば100年目だ。この書物に書いて有ることを実践して畑に肥料を与えなさい。女神様との約束を破ってはならぬ」と言っておられたのを今の今まで忘れておりました。申し訳ございません。執事としてあるまじき失態です」
「いやいや私なんか,30年後の事なんか覚えていられるかと頭から追い払っていた。あの頃は反抗期だったからなあ」
先代様は直後に急死されてしまったらしい。
「ところでその書物は今どこに?」
トオルが問う。
「はっ、今直ぐ書庫をさがしてまいります」「私も行こう」
『お手伝いします」
いつ書かれた書物なのか?どんなことが書いて有るのか興味津津だ。
昔から伝えられて来た書物なら変色してボロボロになっている筈だ、取扱いに注意しなければなるまい。だがここの書庫に保存されている書物はそういった古臭い物は見当たらない。
「この書庫は魔道具によって保護されているのです」
トオルの疑問に執事のカインさんが答えてくれた。
こうなると1冊1冊調べて見なければならないトオルの調べた物は一応鑑定を掛けてあるが該当するものは無かった。
「有りませんなあ先代様はどこに仕舞ったのでしょうか?」
「大金庫も見たが無かった」
「ミレーナ女神様に関することなら大神殿にも残されているのでは?」
トオルの一言で大神殿に出向くことになった。
でも神殿も100年毎に行なわねばならないことを何故教えてくれなかったんだろう?
どうしても確認する必要がある。
大神殿に着くと大神官と聖女が出迎えてくれた。
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