第51話 交渉事

 魔鉱石の、多すぎる魔力を浄化する魔道具の動作実験が始まった。

現在魔道具を身に着けていないのはトオルとマズサーン長官だけだ。トオルが取り出したのは水晶が纏まった棘だらけの様な形の30㎝位の不揃いな球状の魔鉱石だ。恐らくはエンシェントドラゴン5頭分の魔力量だろう。

「ん、こ、これは!す、凄い魔力量だ。んーんまだまだ負けんぞ!」

マズサーン長官は言葉に反して汗の量がひどい。

「マズサーン様、どうぞ魔道具を」

トオルが魔道具を手渡す。急いで手首にはめるマズサーン様。

「ふう、生き返った、確かに浄化されてる」

「よろしければ魔鉱石を仕舞ってしまいますがどうでしょうか?」

「うむ、そうしてくれ」

と言って国王陛下は魔道具を外して隣の護衛に渡して、自分の結界を解くように命じた。

トオルが魔鉱石を仕舞うまでのわずかな時間で魔鉱石の魔力を身をもって確かめたかったようだ。

勇気が有ると言うか蛮勇だと言うべきか⁈


「わが身で確かめたが凄い魔力だった。そして魔道具の優秀さを褒め称えよう」

「ははあ、ありがたき幸せに御座います」


「今回はブレスレットだったが鉱夫が使うには邪魔かも知れんな。実際に採掘現場で使うには別な位置に着けた方が良さそうだな」と鉱山管理者。

「任せろ。儂がいや、儂の部下達がそっちの望みどおりに好きなだけ作ってやるぞ」

と、マズサーン様が胸を張る。



その後新種のブドウから出来たワインの味見会になった。

それも大好評だ。今迄のワインとは違うと大興奮だ。


「ものは相談だがこのワインのブドウの苗を接ぎ木で増やして我が国の特産品にしたいのだがどうだろうか?」

と聞かれた途端、「ちょっと待ったー」とバッカスさんが待ったをかけた。

「これは儂がヤピン王国の名物にしようと考えていたものじゃ、この件に関してはヤピン王国とも交渉して欲しい」

もう既にヤピン王国国王に手紙を送っていたらしい。

「でしたら、バッカスさんにも赤、白、各10本渡しますから

両国で競い合ってはいかがですか?美味しい方が売れるでしょうから」

「おお、儂はそれで良いぞ、腕が鳴るわい」

「私の方もそれで結構です。お互い良いワインを造り出しましょう」

セルフさんもやる気に満ちていた。

「それでは増やせる本数は取り敢えず両国とも10万本までとしませんか?それ以上増やそうとすると増やした分は枯れてしまう魔法契約で」と、トオル。

「うむ、とりあえずはそれでいこう。ただし、今後の売れ行き次第で再交渉出来ることにして欲しい」

「で、苗1本当たりの価格は今までの慣例に従って1万デルでどうでしょう?」とセルフさん。そこへ国王陛下が案を出す。

「いやいやそれではトオル殿が損をする。1本当たり1万5千デルでも我々は採算がとれるとふんでいるそれでどうかな?」

国王陛下の一声で決定した。両国合わせて30億デルがトオルの懐に入ることになった。バッカスさん勝手に決めちゃって良かったのかな?聞いたらヤピン国王陛下からは一切の取り決めを任されていると言った。

義父とうさん、結構偉い人だったんだ!ただの飲兵衛じゃなかったんだこれまた感心させられた。


交渉成立したところで明日はマズサーン様と鉱山管理者他の方達を案内して魔鉱石鉱脈まで行くことになった。

魔力浄化魔道具はマズサーン様が預かって鉱山管理者さんとどんな形状にするかを打ち合わせて改良するという。その際、あの時採掘した魔鉱石を適度に浄化して渡しておいた。

鉱石は最初に発見した者と土地所有者が半々の採掘権を有する。今回は自分で採掘するのも面倒くさいので既に採掘した物を受け取って、採掘権は王国に売り渡すことにした。王国の年間売り上げの10%を受け取る事ができる魔法契約だ。ちなみに、売上高のごまかしは出来ない。帳簿の真偽判定魔法が作動するからだ。


鉱脈見学ツアー参加者とバッカスさん、セルフさんも入れて総勢10名であの場所に転移する。

一瞬で到着した。

マズサーン様が地図を取り出して現在位置を特定する。

帰りは飛行魔法でこの場所に来るまでの道を確認したいと言われた。新しく道を作らなければいけないかも知れないし、鉱夫の宿泊施設施設も作らなければいけなくなるかも知れないのだ。


「おお、これはこれは!本当に魔鉱石の鉱脈だ」

マズサーン様の言葉に対してトオルが尋ねる。

「そういえば、伝説とはどの様な?」

「昔々この国を造った初代国王陛下が、とある山で膨大な魔力を含有する魔鉱石の鉱脈を発見して魔道具を作って王都の整地、道普請、外壁の作成をしたという。

ところがその山の近くの火山の噴火によってその周辺の地形が変わってしまい鉱脈の位置が分からなくなってしまったそうだ。

鉱脈探索はその後も続けられたが、火山の噴火はその後も続き完全に以前の地形と変わってしまい。失われた魔石鉱脈と言われる伝説になってしまったのだよ」

「その火山は今でも噴火する可能性は?」

「いや、もう大丈夫だろう。もう千年も噴火していないし、地下から湯気も有毒ガスも出ていない。だが大自然のことだ絶対ということは無いだろうがな」

「今回見付かった原因は何でしょうね」

「うむ、此処の地質は柔らかい土で出来ている。恐らく100年前の大地震の影響で崩れやすくなっていて、2年前の大嵐で土砂崩れしてしまったのだろう。考えうるにこの鉱脈は大鉱脈の端っこだと思われる。大元の中心はあっちの溶岩台地の地下深くに眠っているのではなかろうかのう」

「この辺は人が立ち入る場所では無いですからね。今迄発見され無かったのも頷けます」

鉱山管理者(ソラーノさんと言う名前だった)が言った。


トオルが最初に採掘した場所に来た全員魔力浄化具は足首に着けていた。ブーツに隠れているので外からは見えない。結界の中に入る。

「皆さん気分はどうですか?気持ち悪く無いですか?」

トオルが尋ねる。

「大丈夫魔道具はちゃんと働いている」

ソラーノさんが代表するように答えた。


 「まず、この辺に広場を作ったほうがいいな」

マズサ―ン様が言うと部下の魔法使いが指定された区域を整地して広場に変えた。

「ここに小屋を建てて予備の魔道具類を保管した方がいいでしょう。万が一ということもありますし。それに鉱夫達の休憩所も」

「採掘した魔鉱石は一定の量まで魔力を減らしてから転送バッグを使って魔道具工場へ送れば宜しいでしょうね」

「そうだな。人の住む町にこの濃度の魔力の魔鉱石を送る訳にはいかんからな」

「それではここを覆っている結界から不適合な魔石を持ち出そうとしたり転送バッグで転送しようとしても強制的に戻されるようにしておきましょうか?」

トオルが提案する。

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