第50話 エストロア王国国王陛下に会う
トオルたちはエストロア王国国王陛下に謁見するために王都に向っている。今回も馬車での移動だ。外国を旅行するならゆっくり見て回りたかったからだ。国王様にはトオルの転送バッグを使ってセルフさんの手紙を送ってある。王都には5日もあれば着けるだろう。
バッカスさんは相変わらず酒浸りだ。酒臭くなったらすかさずクリーン魔法が発動するような魔道具を作って置いてある。これにも魔鉱石を使っている。
「本当にあっと言う間に魔道具を作ってしまうんですねえ」
セルフさんが感心して言う。呆れているとも言える。
「王都に着いたら魔法省長官に捕まって放して貰えそうにないですなあ覚悟しておいて下さい」
笑いながらセルフさんが言った。長官って、魔法オタクみたいだなと可笑しくなる。
「ところでお譲りいただいたブドウの名称は何でしょうか?新しいワインに名前を付ける時、参考にしたいので教えて下さい」
「ああ、赤ワインのは【赤蒲萄】で白ワインのが【白葡萄】です」
本当は【甲州】と、【シャルドネ】という品種だが日本名を異世界に残したくない思いでわざと【赤葡萄】、【白蒲萄】と告げたトオルだった。散々日本の物を取り寄せて広めているくせに今更の気がするが、気持ちの問題だと開き直る。
セルフさんには【アカブドウ、シロブドウ】という日本語とは違うニュアンスで伝わったようだ。
御者はトオルが務め、番人が居る所ではセルフさんに御者台のトオルの横に座って貰い対応をお願いする。
道中、美味い飯を食わせ美味い酒を飲ませて、魔物にも盗賊にも会わず明日はいよいよ王都だ。
旅の間にトオルがいなくても人が入れず、魔力が外に出ない強力な結界を半永久的に張れる魔道具を作ってあそこの崖に転移して設置しておいた。勿論、壊れないように
同時に付近の川の水質を検査する。正常な値だった。
王都の外壁が見える。堅固な要塞を思い起こさせる外壁だ。王都への入り口の門の前には長い列が出来ていた。出口からも沢山の人が出て来る。人の出入りが激しい賑やかな街が想像出来る。そしてトオル達の番が来た。
セルフさんに対する門番の対応がまるで偉い人に対するもののようだ。セルフさんて実はとっても偉い人だったりして……。
「実は農業省の長官をしております」
噓、聞いてないよ。てっきりワイン造りのブドウ畑を管理している人だとばっかり思っていた。偉そうな素振り全然見せなかったし。セルフさん恐るべし!トオルは感心していた。
王宮に着いた。馬車と馬を預けて、門から石畳の道を歩いて王宮の玄関に向かう。途中で旅の汚れをクリーン魔法で落しておく。
そして今、何とか無礼な振る舞いをしてしまうこともなく、御前会議に参加していた。
セルフさんがこれまでの事を報告して、細かな質問に俺が答える形式で報告は済んだ。だが、魔鉱石の鉱脈発見したことに会場は騒然となった。
「何と、伝説だとばかり思っていた魔鉱石の鉱脈が本当に有ったとは!これは凄いことですぞ。1度実際に現場に行って見なければならないが、安全に掘り出せるかどうか確認しなければいけませんなあ」
そう言ったのは魔法省長官のマズサーン様だった。
「トオル殿魔鉱石の実物を見せて下さい。魔力酔いしない程度に7割魔力を削ってお願いします」
「かしこまりました」
トオルは長さ14㎝真ん中の厚さ7㎝の結晶を取り出した。黒光りする水晶の両端が尖っている水晶みたいだった。
それをトオルがある1点に力を籠めると結晶はバラバラになったがその1個1個は元の大きかった時と同じ形だった。さっきのものの10分の1の大きさだ。更にそれをまた分割すると元の大きさの100分の1になった。
それを予め作って置いた携帯魔コンロにセットするとガスコンロみたいな炎を出した。そこに水の入った大き目のヤカンを乗せてお湯を沸かすと、直ぐに沸騰した。メイドさんに紅茶を
すかさずセルフさんとバッカスさんも美味しそうに飲んで見せる。すると他の人達も飲みだした。
「この大きさの魔鉱石で毎日3時間使っても1年は交換せずに使えるはずです」
トオルが説明する。
「あの大きさの魔物の魔石なら良くて1ヶ月くらいしか持たんだろうな」
「聞けば魔鉱石は無尽蔵にとれそうだから魔道具作り放題だな」
魔法省長官のマズサ―ン様が嬉しそうだ。
ところで、自然のままだと魔力量が多過ぎて常人が近付くと魔力酔いしてしまうそうだが何か良い案は無いものか?」
国王がトオルに問う。
「魔力を浄化する魔道具を身に着ければ普通に採掘作業を行えるでしょう、ここで実験してみましょうか?」
「うむ、頼む」
「念のため国王様には予め結界を張っておきましょう」
マズサ―ン様が結界を張る。
トオルは其処に居る全員に自分の周囲の魔力を浄化する魔道具を配った。身に着けた瞬間に作動開始する。マズサーン様は浄化前の魔力量を確認したいと、わざと魔道具を身に着けてない。
危険だとトオルが思った時に装着させることになっている。
「では、取り出します。気持ちが悪くなったら言って下さい」
国王様の横にはもしもの時に備えて護衛の魔法使いが2人控えている。
実験が開始された。
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