第43話 1対……
マルテウス王国軍は自国の南端、ヤピン王国との国境の近くまで進軍していた。軍の大隊長は敵の動静を探るために斥侯を走らせた。大隊はその場に休止して遅れている後続を待つことにした。
王都からここまで約1000Km、当時のマルテウス王国には転移出来る者もおらず、まして空飛ぶ魔獣や神獣と契約できる者もおらず王都の異変を知るには最低5日は掛かるだろう。
知った所でどうしょうもないのだが。
そんなマルテウス王国軍の様子をはるか上空から様子を窺っている者が居た。自分の姿を隠蔽した朱雀のシュである。此処はこの世界の大陸の南端、南の守護神である朱雀のテリトリーである。
トオルの契約獣のシュにとってトオルと仲の良いヤピン王国やキツナエ王国に仇名す者はシュにとっても敵なのだ。トオルからは特に命令を受けてはいないがもしもの場合は独自で守護神の責務を果たすつもりなのだ。
軍の中にトオルと似たようなオーラというか魔力の質というか、この世界の物でない異質な感じを受ける集団が居た。
勇者召喚されてきた者達なのかも知れないと、興味を持ってその集団を見守ることにした。
「やっと俺達の出番が来たか。腕が鳴るぜ大暴れしてやろうぜ」
「これって魔王退治じゃ無く戦争だよね。わたしたち人殺しの手伝いさせられるんじゃないのわたし嫌だよ、戦争なんて」
「なに甘いこと言ってんのよ。ここは異世界なのよ弱肉強食の世界だよ、1人殺せば殺人者だけど沢山殺せば英雄でしょ。あたしはやるわよ、5年も厳しい訓練を受けて来たんだものただの人間を殺すなんて簡単なことよ」
「でも逆に言えば自分が殺されても構わないってことよね。やっぱり私は嫌だわ」
「だったら逃げ回ってればいいさ、その代わり俺達の邪魔になることはするなよ」
「きゃー怖いってそいつの腕にしがみ付いてあげたらきっと喜ぶんじゃない?そんな事でも無ければ女の子に抱き着かれるようなイケメンじゃないんだしさ」
「ンだと!馬鹿にすんな!」
どうやら殺し合いの怖さいやらしさを知らないひよっこ共の言い合いだね。
いいんじゃない?1度本当の戦争を経験して見れば。
シュは突き放して見守ることにした。
斥侯の1人が帰って来た。
「ヤピン王国の勢力はやはり大したことはありません。壁の入り口前には約1万人しか配置されていません。そこを突破出来れば敵王国侵入は容易いと思われます」
「ようし遅れていた部隊も追いついたようだな。良し行くぞ
突撃だ!!」
「ウオー!!!」
10万の兵は一気にヤピン王国に向かって突撃を開始した。
シュは取り敢えず味方の兵士に防御結界を張って置いた。
積極的に攻撃には参加しないが防御結界くらいならトオルに𠮟られたりしないだろうと自分の行為に言い訳しながら。
戦うことを嫌がっていた女の子を探すと何とか仲間から遅れずに着いて来ていた。
(あの子意外と身体能力高いんじゃない?)
シュは案外その子のことが気に入っているようだ。こっそり防御結界を張っていた。もし平気で自分の味方兵士を殺したなら直ちに結界は外すつもりだ。
遂にマルテウス王国軍がヤピン王国の外壁が見える所まで侵攻して来た。
「進めー一気に敵国に突入せよ」
ワーワーと叫びながら全速力で入場門に殺到するマルテウス王国軍。
ヤピン王国軍はその勢いに恐れをなしたのか入場門前から蜘蛛の子を散らすように逃げ去ってしまった。
あまりにも不自然な行為だが、マルテウス王国軍にそう思う者は居なかった。
「敵は我らに敵わぬと察して逃げ出したぞ!1番槍は俺のものだ」と我も我もと門の前に殺到するマルテウス王国軍。芋の子を洗うような状態だ。その塊に火魔法が襲った。そして次々に色々な魔法が襲ってくる。マルテウス王国軍の列の両側にいつの間にかヤピン王国同盟軍が現れて、矢を射り、魔法を放ってくる。逃げ出したはずの兵士が混じっていることにも気が付かない。
逃げようとしても後ろにも5万を超える同盟軍が待っていて罠にかかったマルテウス軍を惨殺していく。
その中で1人だけ動き回っている者が居た。シュが防御結界を張って上げたあの女性だった。彼女は泣きながらも傷を負った兵士達に治癒魔法を掛け続けている。
その姿はあまりにも神々しくて同盟軍も彼女に攻撃するのを戸惑っていた。
やがてマルテウス軍は次々と投降する者が現れてついに同盟軍の軍門に下った。
国王と軍の主なる者たちは拘束されて後日同盟軍各国の合議の上で裁判に掛けられる予定である。
治癒魔法を掛け続けていた女性は【戦場の聖女】と呼ばれてヤピン王国で身柄を預かって、保護する事になった。
勇者召喚でこの世界に来た他の高校生だった者達はあるいは戦死し、軍事裁判に掛けられて罪を問われることになった。
「この世界は弱肉強食だ」と言って、すすんで戦闘に参加したあの女性も戦死していた。
結果的に5年も訓練を受けていた割にさほど強者だと思われるものは居なかったようだ。敵を倒した時は自分がヒーローにでもなったように勝利に酔っていたが、1度自分が傷つくと痛さと死の恐怖で動けなくなっていたと。治癒魔法を掛けて貰った男性の1人が証言していたという。
※※※※※※※※※※※※※
今朝起きてパソコン立ち上げたら誤字報告の嵐!!!
というわけで今日は最後の誤字報告の後の回の見直しと修正を行います。明日の(10月1日の)更新が遅れるかも知れません。済みません。よろしくお願いいたします。9月30日
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます