第42話 王国軍と神獣
王国軍がモスタの森に入り込んで来た。
途中途中で、強力な魔物に襲われて約半数の兵力が失われていた。
引くにも引けず、何とかトオルの住居に辿り着いた。
そこには大豆やら小麦やらの作物が青々と育つ広大な畑地が広がっている。そこは作物の育たない不毛の地と呼ばれていたはずなのだ。これをたった一人の少年が開拓したというのか⁉軍を率いて来た部隊長は驚愕していた。
『貴様らここで何をしておる、此処はミレーナ女神様の神聖な地であるぞ許可なく立ち入ることなど許されぬ早々に立ち去れ』
地を揺るがす様な咆哮の後に兵士達の頭に直接、人間の言葉で話しかけられる。
きょろきょろ見回すと何時の間に現れたのか像ほどの大きさの白い虎が宙に浮いて軍隊を睨んでいる。か弱い兵士はすくんでしまって動けない。
部隊長が勇気を振り絞って答える。
「我々はマルテウス王国軍の部隊である。カンセコ領のワ村の村長の訴えにより、トオルなる極悪人を捕らえに来た。神獣の白虎様とお見受けいたす、このまま我々を通して頂きたい」
『ほほう、トオルが極悪人とな?して、如何なる罪を犯したと言うのか?』
「村長を脅して村の重要な植物の黒瓢箪と、シットパンプキンを強奪してこのモスタの森で栽培し、ミソ、ショーユとして売って暴利をむさぼっているとの訴えだ」
「ほほう、それはまたおかしい話だな。あの時俺はちゃんと金を払って買ったぞ。これこの通り領収書も有るぞ!」
転移で部隊長の横に出現したトオルは領収書を部隊長の目の前に突き付けた。
それは紛れもない本物の領収書で、しかも魔法契約した領収書だ。、噓をついたり悪用したら天罰が下るという代物だ。
部隊長は冷や汗が止まらない。その噓に加担した者の身にも天罰が落とされる可能性も有るのだ。
「このまま大人しく王都に帰るなら、お前たちに危害は加えないがあくまで抗うと言うのなら白虎の情け深い天罰が下されるぞ。判ったらとっとと去れ」
部隊長が撤退の号令を掛けようとしたその時、血気盛んな若い兵士5人組がトオルに襲い掛かった。が彼らの攻撃が届くことは無かった。
白虎のハッコの情け深い極微弱な雷が彼等の剣に落ちたのだ。死ぬことも無いが碌に身体を動かすことも出来ない。トオルは王国軍を1か所に纏めて国王の元に転送した。
ちなみに抗った者達が居たことで部隊全員に天罰が下った。取り敢えず5日間は寝たきりになる呪いだ。起きた時には死にたいくらいの激痛に襲われるだろうが命に別状は無いだろう。
そしてワ村の村長チピーラは魔法契約を破った罪で一生片手片足がマヒして介護人が居ないと満足な生活が送れない身体になった。介護人を雇う資金にこれまでピンハネして溜めたへそくりが使われることになったが果たしてそれだけで足りるだろうか?贅沢ぐせがついた彼に節約なんか出来ないだろうし、いつまで生きられるかは神のみぞ知る。
ある意味即死させてもらった方が幸せだったかも知れない。
それでも国王は反省も悔やみもしていない。神獣に見つかってしまったのは残念だったが、次はモスタの森から外へ誘き出せば良いことだ。モスタの森への侵攻は一時休止して、ヤピン王国への侵略することに目的を代えてそっちに全力を尽くす気になっていた。今度は異世界から勇者召喚したガキどもも連れていくことにした。
国王も間諜達も、トオルが4神獣と契約していることを知らない。トオルの事はアテルイ村の村長及びギルマス達によって緘口令が敷かれている。村に職場を作って豊かにしてくれたトオルの事を売ろうなんて人間は、この村には誰一人居なかった。
だから余所者には商才に長けた普通の少年としか思えない。
冒険者ギルドに月1回魔物の肉を持って来るという情報も、弱い魔物の肉としか聞いていない。
例えそれがトオルにとってはという意味で、普通のBクラス冒険者には強敵である事を敢えて隠されている事実は間諜には伝わっていないのである。
それ故に、国王のトオルに対するイメージは、開拓に長けた商才を持っているだけの人間で、さほど強い者とは思っていないのだ。
今度の失態もすべて神獣白虎に見つかってしまった故の不運だったに過ぎない。次回はもっとうまく動けば良いだけの話だ。
そう思っていた。
さて、侵略軍の総数は10万人。ヤピン王国の軍は約3万人だと間諜から聞いている。一気に攻め込んで短期で侵略してしまおうと言う算段であった。王国軍はマジックバッグを所有していて水も食糧も交換武器も消耗品の弓矢の心配も要らない。ポーションも多数用意している。
今度の戦は容易く勝てると信じて疑う者などいなかった。
国王は忘れていた。自国が他国に間諜を放っているように他国も自国に間諜を送り込んでいる可能性が高い事を。
しかもヤピン王国側は転送バッグを所有していて、その都度情報が本国に送られていた。
更にヤピン王国は隣国のキツナエ王国と西隣のサウスパーク王国とも軍事同盟を結んでいて戦力はマルテウス王国が掴んでいた情報の約4倍の12万人を超えている。更に更に、秘密裏にかつてマルテウス王国に侵略されて領土を失った各国とも軍事同盟を結んでいて、マルテウス王国の軍隊が10万人、王都を離れている事も伝えられていた。当然同盟国には転送バッグが配られている。瞬時に情報の共有が出来ている。
国王の知らない所で各国のマルテウス王国侵攻が始まった。
マルテウス王国とヤピン王国との戦争だったはずが約10か国がヤピン王国側に回っていることをマルテウス王国側はまだ知らない。マルテウス王国の不利を知ってマルテウス王国に恨みを持つ他の国も参戦して来るであろう可能性が高いのだった。
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