第37話 プリッチーさんの決断

 バジリス王国国王一行が到着した。先ずは宿に入って頂いて旅の疲れを癒やして貰う。国王様からの手紙にはお付きの女性の人数が入っていなかった。

 王族は着替えも風呂もお付きの女性に手伝って貰っているなんて想像していなかった。そんなの子供時代だけだろうと軽く考えていたのだ。慌てて女性陣の部屋と浴場を増築した。今度も村のおかみさん達に手伝って貰った。礼を言うと「こっちこそ亭主の1カ月の稼ぎをたった1日2日で稼がせて頂いて有難いよ、もしまた何か有ったら声こえかけておくれよ」と逆に感謝された。


 翌日、俺も同席の下に2か国会議が開かれた。

 大筋はオーガ王国によるバジリス王国の浜村襲撃のお詫びだった。

 会議の結果襲撃を命じた軍隊長の処分をどうするかと、賠償をどうするか?、今後の両国の付き合い方の3点に議題は絞られた。


 「プリッツ国王様の謝罪は受け入れました。軍隊長の処分はオーガ王国の規則に乗っ取って決定して頂ければ結構です。それと賠償金につきましてはそちらのお金と我が国のお金は違いますので今回はあなた方の資源の金、銀、銅の供出を受け入れます。

今後良い関係を構築する為に、貨幣価値の見直しを専門員同士で話し合って決めるということでどうでしょうか?」

とバジリス王国国王ノブヤス様が提言した。

「その際には手紙のやり取りが簡単に出来るこちらのトオル殿が開発したこの時間停止付きの転送機能付きマジックバッグをそちらの国でも購入して貿易をしていただきたいと存じますが如何でしょうか?」


「おお、それならばしょっちゅう両国間を行ったり来たりせずに済みますな。それに【どぶろく】と【清酒】を輸出して頂ければ

当方としても助かります。トオル殿是非売って頂きたい」

「承知致しました。この転送バッグは8億デンで売っておりますので、この大金貨900枚分の重さの金塊でお売りしましょう。これには金塊を金貨に加工するための労賃も入っています」

大金貨1枚当たり100万デルだが加工賃がそんなにかかるかどうかは知らないが今後貨幣価値を定める時のサンプルになりそうなのでバジリス王国側が損をしないようにと考えた。その為に金鉱石ではなく金のインゴットで取引するように決めた。銀、銅など他の金属もインゴットでの取引にした。


 会議は双方笑顔で終えられた。

 バジリス側にすれば今回前回合わせても死人は出なかったし兵士がけがをしただけで済んだ。後は家を壊された住民への家の建築費用、道路や畑の整備費用が受け取れれば良いと考えていたがそれ以上の成果が得られた。今後の貿易も楽しみである。


一方、オーガ王国側も山で無尽蔵に産出する、柔らかいだけで腐らない錆びないだけの武器にもならない金という金属が貨幣代わりに使える事になって万々歳であった。


 それよりなによりみんな大好き【どぶろく】を輸入出来るかもしれないのだ。国民に喜んでもらえるなとプリッツ国王はニンマリしていることだろう。


プリッツ国王が自国に帰る時愛娘のプリッチーさんに言った。

「私と一緒に我が国にきてくれる決心は出来たかい?」

プリッチーさんは暫く無言だったがようやく言った。

「ごめんなさいお父さん、私はトジノさんと一緒にお酒造りをしたいんです。お母さんが夢見ていたお米を使った本当に美味しいお酒を造るって夢が実現しそうなんです。私は1人じゃない、お母さんもついてるし、村の皆も頭に角の有る私を差別しないで不通に接してくれるんです」

プリッチーさんは頭の両脇に纏めたお団子の髪を解いて見せた。

そこには可愛らしい角が生えていた。

そう言えばプリッツ国王自身も村人に気味悪がられたり石を投げ付けられたりしなかったことを思い出した。

「この村にはいろんな国からいろんな人が流れ着く村なのよだから村の中でまともな人種って数少ないかも知れないらしいわ」

と、サッチが言っていた。色んな種族の血が入り混じっているらしい。

この村なら出会えたばかりの愛娘を任せても大丈夫だろう。

プリッツ国王は納得していた。

「皆さん、プリッチーの事を宜しくお願い致します。この村にいえ、この国に何か有った場合は私が、我が国が助けに参ります。

この度は誠にご迷惑をお掛けしました。それでは失礼いたします」

オーガ王国一行は自国に転移していった。

一件落着のようである。

俺は思った。精米したブラウングレインをオコメと呼んでいたというサッチさんはもしかしたら日本人の転生者だったのではないのかと。ご本人が亡くなられた今となっては確認できないが。


 バジリス王国国王に時間差にについて訊いてみたが何も解らなかった。この浜村にいろんな種族が流れ着くってことに関係が有るのかも知れない。謎のままだった。

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