第36話 父と娘

 今直ぐ、あの村に誤りに行きたいと言う国王に

「今のあんたの様な巨大なオーガが現れたら、国中大騒ぎになってしまうよ絶対に許可できない」

と、俺。

 『魔法大臣なんとかならないか?』

『魔法薬で縮めることは可能かも知れませんが非常に痛い思いをすることになるでしょう』

『構わんその魔法薬を使ってくれ』

『かしこまりました。ではこの薬をお飲みください』


 オーガ国王は魔法薬を飲んだ。声には出さないが相当痛いみたいで顔がゆがんでいる。歯を食いしばっている。

国王の肉体はたちまち縮んでいく。だがそれでも2m近い身長は有り、筋骨隆々なのは変わらない。だが顔つきは穏やかな表情になっている。


 俺達の世界には俺の転移魔法で行くことにした。


 転送バッグでバジリス王国国王にはオーガ国王がおわびのために行くことを伝えている。転送機能は無事機能してくれた。

 あの村で会見することになって村の住民を巻き込んで大騒ぎになっているとトジノから連絡が有った。村では2か国の国王様をお泊めできるような宿泊施設が無いと悩んでいるそうだ。

広い空き地が有ったら俺が即席で錬金術で作ると伝えて置いた。

どぶろくに思い出があるみたいなのでトジノに用意して置いてくれと伝えた。


あの村に着いた。村の名前はハマ村だった。俺は(浜村)と覚えた。


俺は両国王の宿を作るために用意された空き地に赴いた。

オーガ国王は本人と宰相、護衛の者5人で7人泊まれればいい。但し全員体格がいいので1部屋を広く、長さ3m幅2mのベッドと寝具を用意した。


バジリス王国側は国王様の他に重鎮が3名、護衛兵士が10名の14人分の部屋を用意する。兵士は2~3人1組でも良いかもしれないが国王様と重鎮3名の部屋の隣とか向かい側に兵士の部屋も必要だろうから部屋数は多めに用意した。部屋割りは任せようと思う。会見場所も両国の宿舎の間に作った。


オーガ国王一行は宿舎に入って貰ってバジリス王国側の到着を待つ。ここで不思議なことが起こった。王都から最速でも5日かかるはずの道のりを昨日手紙を転送したばかりなのに明日には着くと手紙が来た。オーガの世界とこちらの世界では時間の進み方が違っているのだろうか?もしくは内緒で人間を遅れる転送魔法か

魔道具を使っているのだろうか?

会ってから聞いてみよう。


 来賓達のおもてなしは村のとおかみさん達に

協力してもらった。料理については俺とトジノが作って、あるいは収納空間から取り出して提供することになった。後程王国から村に賃金が支給されるはずだ。



昼食の後、オーガ国王が昔お世話になった女性に会いたいと言ってきた。俺とトジノがお供をすることにした。


 若き日を思い出したプリッツ国王は人間の言葉も流暢に話せるようになっている。

「おお、此処だ此処だ」

小さな畑に囲まれた小さな古い家だった。

「あれ、此処ってプリッチーさんの家だわ」

「プリッチーさんて?」

「お酒造りを手伝って頂いている女の子のことよ。どぶろく造りの名人よ。でも変ね。彼女ってお父さんもお母さんも居ないって言ってたわ。もしもプリッツさんがお世話になった女性なら30代以上でしょう?彼女はまだ16歳よ体つきは立派な大人の女性だけどね」


「サッチ!サッチ、俺だよプリッツだ出て来てくれないか」

「どちら様ですか?母は3年前に亡くなっていますが」

家から出て来た女性は身長180㎝位のボンキュッボンのナイスバデイの、でもまだ幼さの残る可愛い顔の女性だった。

よく見るとオーガ国王のプリッツさんに似た面影が感じられた。


「な、なに、サッチが死んだって?き、君はサッチの子供かい?」

「はい、プリッチーと言います。会ったことのないお父さんとお母さんの名前を組み合わせた名前だと聞いています」

「やっぱりそうか、私はプリッツ。多分君の父親だ。君の母さんには言っていなかったがオーガの王子だった時に君のお母さんのサッチに命を救って貰って暫くの間お世話になっていた。今はオーガの王になっている。で、サッチは何で亡くなったのかね?」


積もる話が長くなりそうなので俺は彼女の家の隣の空き地に1部屋だけの家を作ってソファーとテーブルをセットして屋内で話し合うように提案した。

「気を使わせてここまでして貰って実にかたじけない。有難く使わせてもらおう」

「あ、あの、トジノさんのお酒造りのお手伝いをさせて頂いていますプリッチーと申します。よろしくお願いします」

「始めましてプリッチーさん、トジノの夫のトオルです。どうぞ宜しく」


新しい小屋はあの大きなベッドも置ける広さになっている。今後プリッツが彼女を訪ねて来た時に泊って行けるようにと考えたのだ。


サッチさんの死因は胸に石が出来る奇妙な病気だったそうだ。

「乳癌だったのかしらね」

トジノが囁く、俺も頷く。


それから感動的な親子の対面劇が有って俺とトジノは親子2人だけにするためにトジノが作った酒醸造所に来ていた。

進捗状況を確認するとこの世界の布ではうまく濾過出来ず濁り酒状態らしい。確かに酒の色は透明ではなく白っぽい色をしている。俺は【日本製の調理器具の召喚の画面を開いて酒造りに関するものがないか探した。

俺だけでは決められないので画面を拡大して、トジノにも見える様にして彼女に必要な物を選んで貰った。


あらかた決め終わったトジノは早速召喚したばかりの(購入したばかりの)布と容器を使ってどぶろくを濾し始めた。浜村の住民が家庭用に作ったものに比べてアルコール度数が高い気がした。

味も極めて良い。トジノに訊いたら醸造室の気温を16℃から22℃になる様に魔道具を作って貰ったでしょ。あれで品質が安定してアルコール度数も16度くらいになってるはずだと言う。気温が高いと良いものが作れないのだと言う.

今飲んでるものもまだ醸造途中なのでこの後【火入れ】をして、品質を安定させるのだと言う。素人には判らない色々な工程が存在しているらしい。


「でもね、プリッチーさんが仕込んだどぶろくはこの村の他の誰のよりも素晴らしいの。お母さんから教えて頂いたレシピ通りに作っていると言っていたわ」


酒蔵第1号はこの村に作ってもいいかな、良い人材が得られそうだ。そう思っていた。


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