第35話 若き日のオーガの王
姿を現した俺たちにオーガの兵士たちが襲い掛かって来た。ブルンの弱めの風魔法で吹き飛ばす。
『何と、4神獣の青龍ではないか!白虎も朱雀も居る。それらを従えているそなたは何者だ?何用有って我が城に忍び込んだ?』
「お前たちこそ何で俺たちの世界の小さな村を襲う?これの為か?」
俺はどぶろくの入った
『おお、なつかしき匂いだ!村を襲っただと⁈我はそのようなことは命じておらぬ。誰か知っている者は居らぬか?』
誰も名乗り出ないので俺はマジックボックスに収納して置いた襲撃者共の死体を出して告げた。
「俺はその村の住人ではないが、義によってウォータードラゴンに乗ってその村を襲っているこいつらを返り討ちにしてやった。
7年前にも襲いに来て先代の青龍に追い払われたと聞いている。これでもまだ白を切るつもりか!!」
更に追い込む。
「おい、今さっきここに入って来たお前、お前がこいつらの仲間であることは俺らが目撃している。正直に白状しろ!」
俺は怒気を込めて追及する。
室内の空気が凍り付いた。
『?????どういうことか申してみよ!』
オーガの名前の発音は理解できなかった。国王に言われてその兵士は青くなってガタガタ震え出した。オーガでも失禁するらしいズボンと床が濡れている。
今の俺は自分の呼び方も僕から俺になっている。僕だと相手に対して優しい気持ちが強めな気がするから。怒りを込めて俺と言っていた。
『国王様、私が説明いたします』
老いたオーガが平身低頭して前に出て来た。
『おお、宰相の+++++ではないか、そちが何か知っているのか?』
『事の起こりは7年前に遡ります。当時国王様が酷く落ち込まれていた時が御座いました』
『うむ、確かにそんなこともあったのう』
『はい、その時に国王様のおっしゃった一言がこの者達が動くきっかけになったのです』
老宰相の話を要約すると以下の通りだった。ここはからは3人称になります。
国王が落ち込んでいる時、国王はボソッと呟いたらしい。
「あの人間の村で飲んだ【どぶろく】の匂いと味が忘れられない、あの娘は今頃はどうしているだろうか?」
それは17年前の事だ。まだ15歳で王子だった国王はこの海の西の果てに何が有るのだろうかと、冒険の旅に出たのであった。先代国王から授かった転移の首飾りを身に付けて。
若き国王は可愛がっていたウォータードラゴンの背に乗って大海原の旅に出発した。
数度かの転移を繰り返しているうちに大嵐に巻き込まれて乗っていたウォータードラゴンの背から吹き飛ばされて離れ離れになってしまった。自分は転移装置で(何処か安全な陸地へ)と祈った時に、とある人間の住む漁村に転移していた。
嵐によって彼の魔力は尽きかけていた。
国王になる前の彼は普通のオーガと同じ体格のままである。つまり少年のオーガだ。頭の角以外はほぼ人間と区別がつかない。転移装置も動かせない。
彼は絶望の淵に立たされていた。
弱っている彼を人間の少女が助けて呉れた。名前をサッチと言った。彼は自分をプリンスと言ったつもりだったが彼女にはプリッツと聞こえたようだった。
サッチは飯を食わせ薬草を煎じて飲ませてくれた。
彼女は村はずれで一人暮らしをしていた。小さな畑で野菜とイモを作っていた。
磯に行っては潮だまりに残された小さな蟹やエビや貝を採って来て食卓に乗せた。海藻のスープも多かった。
畑はもう一つ有って、ブラウングレインと言う穀物を育てていた、サッチはその茶色い穀物をガラス瓶に入れて木の棒で
その白くなった穀物を彼女はオコメと呼んでいた。オコメを炊くと飽きのこない美味しさの食料になった。それだけではない。彼女は炊いたオコメを使って香ばしい香りの酒を作ってくれた。 それからは彼もオコメの畑仕事とコメつきの仕事を手伝うようになった。時々森に入って肉の調達もするようになった。猪やウサギやキジを捕まえてきた。
食べきれないときは肉とどぶろくを持って売りに行った。村に 彼を連れてつれて行くと。サッチが亭主を連れて来たと評判になった。
何時しか2人は愛し合うようになっていた。
少年だった彼も大人になる。身の内底からオーガの血が沸き上がってくるようだ。このままではいけない!父親のように巨大な身体になって彼女を踏み潰してしまいかねない。魔力もぐんぐん増えてきているのが判る。今なら転移装置も起動出来る。今後魔力が暴発したらと思うとオーガの国に帰らなければと悶々とするようになっていった。
彼の心の変化を彼女は敏感に感じ取っていた。
この人私の前から居なくなってしまうんだ。そんな予感がした。
それである夜決心して言った。
「プリッツ、あんた帰らないといけない場所が有るんでしょう?
私は覚悟は出来ているわ。お帰りなさいな。でも今夜だけは私と一緒に居て、私を愛して、そして朝になったら私が眠っているうちにそっと出て行ってね。貴方の大好きなどぶろくを大きな甕に入れて置いておくわ。それを飲むたびに私のことを思い出してね」
その夜2人は深く激しく愛し合った。
翌朝早く彼は出て行った。彼女の居場所の無い場所へと帰っていったのだった。
これが宰相が国王から聞いた話らしい。聞いた話に勝手に追加した部分も有るだろうし、こうだったんだろうと言う部分もあるだろう。
老宰相は国王様の少年から大人になった時の思い出話を聞かされてずっと心の中に大切にしまっておいた。
少年の王子が帰還して10年後に国王になった彼がふさぎこむようになった。
あの思い出の事を考えているのだろうと察して、魔法大臣に相談した。その思い出の地が何処か判れば解決の糸口が掴めるだろうとの考えからだった。魔法大臣は国王から転移装置を定期点検の為と偽って借りて、7年前の転移履歴を探して座標ポイントを別の転移装置に組み込んでおいた。それを数個作って置いた。
宰相はオーガ軍の隊長に若き日の国王様がお土産にもらって来た,天下の美酒の【どぶろく】の匂いを思い出させた。
ほんの茶碗1杯だけだったが生まれて初めて飲んだ美酒だったから、その匂いもすぐに思い出した。
この匂いがする人間の村を探し出してこいとの宰相の命令を、
その村を襲ってあの美酒を奪って来いと言う命令だと間違った解釈をした軍隊長が部下に間違った命令を下したのが今回の騒ぎの真相だったようだ。
その為に多数の部下が死んでしまったのだな。
何ともやりきれない思いになっ俺は南無阿弥陀仏と呟いてしまったのだった。
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