第29話 南の海に行く

 南の海には俺達の知らない珍しい魚介類が有るに違いない。

キツナエ王国の南端の海の大きな漁港の町に入って宿を探して休むことにした。イリナエ町と言う所に着いた。

 風呂付のちょっとだけ高級な宿に泊まることにした。

 宿の食事には魚や貝が付いてきた。

「うーん、美味しいんだけれどちょっとものたりないんだよねえ」

「うん、同感だ。やっぱり醤油や味噌が欲しいよね」

明日買った魚介類で自分達で料理しょうということになって

 明日のセリの時間を女将さんに訊いたら

「朝5時だけど素人はセリには参加できないよ。表通りに6時頃に朝市が立つからそこでお買いなさいな」ということだった。

女将さんにお礼を言って部屋に戻り風呂に入って汗を流して、軽く一杯引っ掛けて明日に備えて早く寝ようと床についいたものの

婚前旅行の若い2人に何も無いはずが無く、目出度く初夜を迎えることが出来たのだった。


 窓の外でスズメがちゅんちゅんさえずっている。

(おお、これが世に言う朝チュンって奴か!俺にもとうとうこんな時が……)

なんて幸せ気分を味わっていたらトジノが目を覚ました。

「ううーん、おはよう。トオル」

「トジノおはよう。朝食前に朝市に行ってみるか?」

「うん、そうしよう。美味しい物が沢山有るといいね」


 南国の朝の日差しは強く、気温もぐんぐん上昇する。

朝市には10人くらいのおばさん、お婆さん達が並んで小さなスペースで店を出していた。

 日差し避けに厚手の布が店のスペース上に掛けられている。

魚を並べている箱には氷が敷き詰められており、氷を溶かさないように魔石を使った凍結魔法がかけられている。

ならべた魚も時々裏返している。表面を乾かさないようにしている。鮮度を落さないように気を付けているのだ。


 南国の魚はカラフルで本当に食べられるのか心配だった。そこで鑑定で【非常に美味】と出たものから買っていく。


 隣の店はワタリガニと伊勢エビそっくりの大きなエビが売られている。(これは買いだな)

 買い占めてしまわぬ程度に買っていく。次の店にはサザエが売られている。つぼ焼きに醬油を垂らしたら美味そうだこれも買いだな。

 そんな風にして端まで買いに行き前の店を見ると数が少なくなったところにスタッフらしい人が追加で並べている。これまた鮮度を落さぬ工夫なのだろう。というわけで遠慮して少ししか買わなかったものも今度は欲しいだけ買ったのだった。


 宿に帰って台所を借りたいというと

「今日はお客も少ないから使っていいですよ。でも、後始末と掃除は忘れずにね」

と、快く貸してくれた。


 俺が煮付に適した魚を選んで煮付を作っている傍らでトジノはワタリガニの味噌汁を作っている。


 美味しそうな匂いが充満して女将さんと板長さんが寄って来て、これは何と言う調味料なのか?どこで手に入るのか?どんな味なのかと矢継ぎ早に質問して来る。

 泊り客の2人が寄って来て

「その美味そうな匂いがする料理を俺達にも食わせてくれないか」と言って来た。

「宿代は要らないから私達にも食べさせて」と、女将さんが言ってきた。

 米の御飯と魚の煮付け、ワタリガニの味噌汁のセットで1000デルでどうか?と言うと、

「「「買った!!!」」」

と一気に押し寄せて来た。こんなこともあろうかと10人前を作っておいたので、1度に出すことが出来る。


 ということで女将さん達に配膳して貰って「「いただきまーす」」「「「「「まーす」」」」」

黙々と食べていく。

「何だ何だこの味付けは?こんなに美味い料理は初めて食うぞ」

「この煮付って料理、あの黒い液体の調味料のせいか?」

「この蟹のスープも絶品だ。一体どこの国の料理なんだ?こんなに美味い料理が食べれるのなら、それだけの為に旅行に行っても悔いはないぞ!」

「頼む客人、この料理のレシピと調味料を売っておくれ宿代はいらないし5万デル払うよ」


 ということで俺はアテルイ村の宣伝をする。

「マルテウス王国のアテルイ村でならこの料理を食べれますよ。ここよりずっと北の地方なので違う魚を使いますけれど、調味料はその村の商業ギルドで買えますよ。この後この国の商業ギルドに寄って、今持っている分を卸していきますので当分はそれで行けると思いますが予想以上に売れると品不足になる恐れが有りますが、その時の為に手を打っておきます」

 ということで宿を出た後は町の商業ギルドに寄って転送バッグのセールスだ。余分に作って置いた料理を複製して置いて味見して貰う。で醬油と味噌、味醂を置いてもらう事にした。この料理が食べたくなったらあの宿で食べれるだろうと宿の宣伝をして置く。

 そこで転送バッグを取り出してアテルイ村の商業ギルドと繋いで

注文の仕方を覚えて貰った。1個の転送バッグを置いて来た。


 その後王都に戻って王都の商業ギルドに行って大きな商談を行う。この国の全ての商業ギルドに行き渡る様に数を纏めて買って貰う所存である。イリナエ町に置いてきた分も請求して置いた。

金額が大きくなるので契約魔法を使って分割払いで契約した。


 契約魔法は違反すると強制的に財産が没収されるのだ。時には命さえとられかねないが殺すより奴隷として働かせた方が損失が少なくなる。


 多分、今後は転送バッグも普通の時間停止付きバッグと時間停止無しの廉価版のマジックバッグのサンプルも置いて来たので注文が殺到する予定だ。

 隣国のヤピン王国にはまだ売っていないので、この国がセールスしてくれるならその分は3割引きで卸しますよと言っておいたから張り切って売ってくれるだろう。


「トオル今黒い笑顔だけど何か企んでるの?」と、トジノ。

いけないいけない、ついつい顔に出ていたらしいポーカーフェイスを特訓しておかないといけないな。

酒蔵を作るために資本金を貯めないといけないからつい張り切ってしまった。

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