第27話 ドワーフの娘さん
「おーい客人居るか!娘のトジノを連れて来たぞ早速清酒を飲ませろ!」
「だめよお父さんそんな乱暴な言い方したら」
「だ、だってよう、トジノがいつも言ってるブラウングレインをもっともっと白く出来れば上手い酒が出来るってあの話をやっと本当のことだと証明してくれる相手が現れたんだ。これが興奮せずにいられるかって」
「もうお父さんったら本当にお酒馬鹿なんだから」
ギルマスに訊いたらバッカスさんはワイン造りの名人だそうだ。
ウイスキー作りにも挑戦しているらしい。
2人のやり取りを見てると、仲良し親子だなあ、と、ほっこりした。
皆さんお待ちかねの様なので早速1.8リットル瓶(1升瓶)を2本取り出して皆さんのコップに注いで回る。見るとトジノさんが反対方向から注いで回ってくれている。
(本当に日本人の女性みたいだなあ)と思う。
日本の会社の宴会の事を思い出していた。
つまみにホタテ、エビ、イカ、ブリ、タイ、マグロ赤身の盛り合わせを出して各人の席にワサビと醬油を小皿に注いで出すと、
「あ、ワサビと醬油だ。こっちにも有ったんだ!」
と、トジノさん。これは元日本人確定かな。
ということがあって、精米機と炊飯器をセットで150万デルで買って貰うことになった。あんまり安くするとミラネル商会が値下げしないといけなくなるので1セットで120万デル儲けさせて頂くことにする。
で、肝心の種籾の方は今現在50俵有るらしいがもしもの時の為に30俵は残しておきたいとのことで20俵で勘弁してほしいと言われた。
1俵当たり約40㎏で1万デルでどうかと言われた。実は俺は1俵4万デルを予定していたので安く買うことが出来た。
日本酒については製造方法を教えて欲しいと言われたが、俺が錬金術で作ったと言ったら
「それは残念だ。わが国にはこれ程の物を作れる錬金術師が居ない」とがっかりされた。
「トオルさん、米麴菌は手に入るんですか?」
と、トジノさんが食い付いてきた。
「ええ、まあ凄く高価ですけれど」
噓である。家庭で作る分には1000デル位で買える。アテルイ村に酒蔵を作りたい俺は余り麴菌を公にしたくない。
だが気になることが有ってトジノさんを離れた所に誘って訊いてみた。
「トジノさんって日本人の酒造りの専門家だったのではないですか?」
「それが判るトオルさんも元日本人?」
「はいそうです、こっち来る前は菅山徹23歳でした。勇者召喚に巻き込まれて、使えない加護だと思われて隣国の魔物の跋扈する森に転移させられたんですよ。でもこの加護のおかげで今日まで生き残れています」
「私は実家が酒蔵の杜氏でした。大地震が有ってその時に死んだと思ったらこの世界に7歳の子供になっていて、どうしようかと困っていたところを今のお父さんに救われたんです。名前を聞かれた時に杜氏の中山菊野だとと答えたんですがお父さんには杜氏のがトジノと言う名前だと勘違いされたんだけどそれでもいいかなと思って、バッカスの娘のトジノとして生きて来ました。
「そうだったんですか、今でもお酒造りに情熱を持っていますか?」
「ええ、一生酒造りに関わりたいと思っていましたしこの世界でも出来る事ならそうしたいと思っています」
「実はですね、僕が今お世話になっているアテルイ村に日本酒の酒蔵を作りたいと思っているのですが一緒に作りませんか?」
「えっそれってプロポーズですか?」
「いえ、そういう訳では無いんですけれど」
俺は慌てて否定するがいつの間にかすぐそばに来ていたバッカスさんが言った。
「トジノを娘にして10年、ついにこの日が来たか……トオル君この子を幸せにしてやってくれ」
泣き出した。
ギルマスやミラネル商会のバリエスさんが寄って来て口々に「おめでとうトジノ」「おめでとうございます」と言ってくる。
後に引けなくなってしまった。
とは言うものの、俺も嬉しかったりする。瓢箪から駒で嫁さんが決まってしまった。でもこの世界でも結婚は15歳からでそれまでは婚約者同士だが同居も可能らしい。事実婚になるようだ。
だが大きな問題がある。アテルイ村でもこのブラウングレインが育つかどうか確かめていないのだ。もしも育たたなかったらよその土地で確かめなくてはならない。
そのことをトジノさんに言うと「その土地で大豆が育つなら麹があれば味噌も醬油も出来るから、いま有る味噌醬油より美味しいものを作ればいいんじゃない?それって楽しそう」と言った。
トジノさん、わりと楽天家で職人肌の人だった。
彼女は黒髪でこの世界の女性と違って日本人顔で黒髪で笑顔が可愛いし、身長もあまり高くなく胸も爆乳でも巨乳でもないけれど俺好みの容姿をしている。何を言いたいかと言うとつまり俺が惚れちゃったということだ。このために女神様は俺をハーフドワーフと言うことに設定したのかな?ハーフドワーフだからドワーフの女性を好きになる様にと……。考えすぎかもしれないけれど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます