第20話 蘇生魔法再び
パーティーには領館の料理長さんが腕を振るった極上の料理が並び、俺の料理も少しだけ並んだ。
アテルイ村のお隣ということで魚料理も普通にメニューが有る。塩煮とか、塩焼きとかだけど、時間停止のマジックバッグは高価だが流通している。その為新鮮な魚介は手に入ると言う。でも時々誰かがアテルイ村まで買い出しに行かなければならなかった。今後は転送バッグで手紙のやり取りをして欲しい物を注文すればその日のうちに届くようになった。
なので、味噌や醬油で味付けした料理はこの領の人達にも新鮮な驚きを与えた。今日は1人5合までの日本酒を提供したら、ワサビ醬油で食べる刺身が飲兵衛のつまみとして大人気だった。
特にドワーフの技術庁長官のデンターさんがこの酒の作り方を教えろとしつこかった。これを作るには米が必要なことと、日本酒を作る醸造所は、お世話になっているアテルイ村に作るつもりだと言うとその時には是非儂を雇ってくれと
「こら、その
とお偉方さん達が止めてくれた。
それにしても本気で醸造所を作るというのも今後のアテルイ村の選択肢として残しておいた方が良いだろうと思う。
その為にはお米の
そんなことを思っていると
「キャー誰か、誰か助けて―」
と女性の金切り声が、叫び声が聞こえた。
その声の方に行くと口から血を吐いて倒れている女性の傍で助けを求める侍女さんらしき女性がいた。
「聖女様、聖女様はいずこに?」
そこにアテルイ村に赴任する予定のあの若い聖女様が倒れた女性の横に膝まずいて女性に手をかざしている。
「神様この女性をお助けください」
聖女様から患者の女性に光が降り注ぐ。だが状況は変わらない。
(まずいな女性は瀕死の状態だ)
と、俺の視線を感じたのか、聖女様が叫んだ。
「トオル様、お助けください。エリクサーをお持ちではございませんか?」
放ってはおけないと俺は人込みをかきわけて聖女様の隣に走った。
兎に角聖女様に上級ポーションを渡して女性にふりかけて貰い、それと同時に心の中で(リバイブ)と蘇生魔法を掛けた。
「ウウンーン」
女性は蘇生した。
「なんと凄いポーションの効き目だ。聖女様でも治せなかった
「あれが伝説のエリクサーと言う薬か!一体どれだけの値段なのだろうか?手が届くものならば手に入れたいものだが……」
人々はそう言っているが聖女様は気付いているようだ。
「トオル様今の魔法は?」
「早くベッドに運んで休んで頂きましょう」
と、俺は誤魔化す。聖女様が使えない蘇生魔法を俺なんかが使えるなんてことは内緒にしたい。これは本当にエリクサーを作れるようになっておかないとな。入手方法を訊かれたらどこかのダンジョンの宝箱から出て来たとでも言っておこう。
その為にはどこかダンジョンのある国へ行っておかないと拙そうだ。なんか自分で自分の首を絞めている気もするが人助けの為だ諦めよう。
倒れた女性は引退した前領主様の奥方様だった。普段から吐血の症状が有ったらしいが主治医の話では原因不明で、一時の症状であろうと経過を見ていたらしい。
今日はいつもより身体の状態が良いのでパーティーに出席したのだそうだ。主治医の投薬していた痛み止めの効き目が凄くてがん細胞が全身に転移していたのに気が付かなかったようだ。
現代日本では考えられないことだろうが、ここは魔法が使える異世界なのだ。そういうことも有るのだろうな。
その日から俺を見る聖女様の目の色が変わったように思う。
聖女様と呼ぶと
「メリーヌとお呼びください勿論呼び捨てでお願いします」
「いやいや、聖女様の名前を呼び捨てにしたら皆さんに殺されてしまいますよ!勘弁して下さい」
「もう、ではでは人前ではメリーヌ様で、2人きりの時こそ呼び捨てでお願いしますね」
「あそうだ、カンセコ領に転送バッグを届けに行かなくては!それではまた、アテルイ村でお会いしましょう」
俺は逃げた。小心者と笑わば笑え、こんな展開、前世でも味わったことの無い俺だ。どうすれば良いのか判らない。前世ではいつも間違った道を選んでいた俺だったが、超幸運を頂いた今の俺なら逃げることが正解だと信じよう。
アキレス領主様に挨拶して領館を辞した。
アキレス領の境界付近で変わった魔力を感じた。
嫌な感じではない。
どちらかと言うと俺の魔力に近い魔力だった。
歩いていると徐々にその魔力が強くなってくる。
(何かいる)
注意して歩いていると腹を上にしてもがいている小さな亀がいた。手足が短いので手足が地面に届かずに起き上がれない様だ。
ドジな亀だ。笑って見ていると、
「見てないで助けてよ」と可愛らしい声で話しかけてきた。
「お前人間の言葉を話せるのか?」
「あたしを助けてくれたらいい事有るよ」
「なんだ?竜宮城にでも連れて行ってくれるのか?」
「何それ?そんなことより早くひっくり返してよ」
泣きそうな声で言うので
「どうもありがとう。ミレーナ女神様の神力によく似た魔力を持ったお兄さん」
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