第19話 アキレス領の重鎮とのお話し合い

醬油、味噌の売り出しはアテルイ村とカンセコ領が手を付けているのであまり得策では無い。もっと別な物をと言うことになって考え込んだ時に俺は唐揚げを取り出して言った。

「ちょっとこの料理を食べてみて下さい。この料理で気になるものは有りませんか?」

「うむ、この揚げ物に使っている油は魔物の油脂では無いようだが」

そう言ったのはこの館の料理長さんだった。流石料理人、違いが判ったようだ。


「そうですこの唐揚げに使った油は僕の故郷で広く使用される植物性の油です。こちらでは植物性の油はとてもお高いようです。どうでしょうね、こちらの領の特産品としてサラダ油を作って売り出しては」


「我が領でも少量だが作ってはいるが質が悪く歩留まりが少ないのだよ」

「その植物は何でしょうか?」

「ナ・フラワーと言うのだが、農業大臣現物を持って来てくれ」

「はっ」


農業大臣が持ってきたのは野生の菜の花でその種は瘦せて小さくて、成る程これじゃ歩留まりも悪いわなと思う代物だった。


俺はキャンノーラ油の原料のキャンノーラ種菜種の種子を取り出して言った。

「これはキャンノ-ラと言う品種の菜種の種子です。これを植えて油をとってみませんか?、それにトウモロコシやヒマワリの種からも油が採れるはずですが試したことは?」

「農業大臣どうかな?」

「トウモロコシ、ヒマワリですか?試してみます。ですがこのキャンノーラの種を植える畑が有りません」

「ここへくる道両脇に大草原が広がっていましたがあそこは使えないんですか?」

「あの辺りに下手に作物を植えるとすぐに国に没収されてしまうんだよ。あの欲張りな国王によってな」

「では今クローバーを植えてる畑を一ヶ所貸してください。実験してみましょう」

「それならばすぐ近くの所を使ってくれ」


許可された畑に行ってクローバーを魔法で根から引き抜き土の上に横倒しにして長い物を10㎝程度に風魔法で切断して土魔法で土の中に漉き込んでいく。この後長くて1カ月くらいクローバーが

醗酵して肥料に変わるのを待つのだが、時空魔法で時間を進めて30分で済ませた。今回は実験なので種をばら蒔きする。本格的に栽培する時は適切な栽培間隔を見極めなくてはいけないだろうがそれは実際に育てる人達に経験で決めて貰おうと思う。


魔法で水やりして、時間魔法で成長を早める。畑一面が綺麗な菜の花畑になった。

「これで明日には種を収穫出来ると思いますよ」

「「「おおおー」」」

「魔法を使えるということは誠に便利よのう。これ魔法長官、我が領にもこのような魔法を使えるものは居るか?」

「は、これは風魔法、土魔法、はたまたあれは重力魔法かな?それと時空間魔法、水魔法と、私が判った魔法だけで5種類を使っておりました。このような手練てだれの魔法使いはおりません。精々水やりに水魔法を使えるものとクローバーの切断に風魔法を使えるものを用意して、成長時間は自然に任せるしかございません」


「ふむ、であろうのう。さすがはワイバーンの群れやドラゴンを1人で瞬殺出来る強者だ」

感心されてしまった。自分で簡単に使えていたから感覚がマヒしていたが普通の人達にとっては驚愕する能力だったんだね。


で翌日、あの畑は見事に収穫期を迎えていた。

今日は農業に従事する人達を集めていた。収穫ぐらいは自分たちの手でやろうということだった。

今日は実際に油を搾り採るところまで進めたいとのことだった。


錬金術でやってしまえばアッという間なのだが実際の作業も見てみたい。

種を焙煎して皮をむいて蒸して砕いて圧搾して異物を取り除いて目の細かい布で濾して、よく見る油が出来上がった。これに書いていない作業もしていたはずなのでとっても手が掛かっているものだと感心した。これじゃあんまり安価で売ってはいけないものだと思った。


「凄いですよこの菜種、以前の野生種の5倍の歩留まりが期待出来ます。これまでの作業を見直して工程を減らすことが出来れば

現在の出回っている商品の価格の半値に近い価格で売り出すことも可能でしょう」

と、工場長さん。

農業大臣と技術庁のドワーフの長官が頷いている。


因みにもう既にトウモロコシとヒマワリの種からの油の採取は試してみたらしい。


「おかげでこの領の特産品が出来そうだよ。有難う有難う。アキレス領領主フアスト・フオン・アキレスが心から感謝する」

領主様に両手で手を握られてお礼を言われて照れてしまう。


「いやあ、この新しいキャンノーラ油の品質も素晴らしい。とても美味しい揚げ物を作ることが出来た。有難う!」

料理長さんにもお礼を言われた。


「豚のラードで揚げればコクが出るけれど、あれはとんでもなく高価だから王宮料理長くらいにしか使えない代物だ。その点この油はサラっとしてサクッと揚って魔物の油のようにギトギトしないし冷めても白い油の塊が表面に残ることも無い。料理界の革命だ。有難う、有難う」


魔物の肉が安価で出回るこの世界では食肉用に動物を飼うことは無い。

牛乳を得るために乳牛を飼うくらいなのでラードは滅多に出回らない。だからとんでもなく高価なのだ。


ということでアキレス領は農業政策を大幅に見直して農地の分配を見直して、キャンノーラ油、コーン油、サンフラワー油、の一大生産地を目指して進むことになった。新農地の開拓も計画するそうだ。


そのあとパーテイーが開かれた。

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