第18話 アキレス領に行く

料理教室を無事に終え、嫌、無事でも無かった。飲んべえの漁師のおっさんが日本酒の匂いに釣られて料理用に用意した日本酒をがぶ飲みしてへべれけになってしまって奥さんにしこたま怒られていた。あれは思いもしなかったアクシデントだった。

俺と奥さんとで共謀してその旦那に日本酒1本金5万デルの請求書を送りつけてやった。酔いから覚めた旦那は青くなって村役場に来て土下座をして謝って行ったそうだ。

「今回は奥さんの人柄に免じて許すが今後酒で問題を起こしたら離婚だと言われ、シュンとなって、禁酒したらしい。


 俺はお金は貰ってないよ。この料理目当てで観光客が増えたら村も少しは発展するかもしれない。そのための先行投資だ。


 そんなことが有って、マジックバッグを作っている間にアキレス領に出発する日が来た。


 商業ギルド、冒険者ギルドに卸す分の物は6か月分納めてあるので挨拶廻りだけして村を出た。カンセコ領に行ったときにアキレス領に通じる交差点は通っているので今回はそこまで転移した。


 アキレス領への道は草原が続く魔物も出ない平和な旅を味わいながら歩く。この辺は国有地になっているのだろうか?これだけの大平原を放っておくのももったいない気がする。草原が続くなら水不足にはなっていない気がするが季節的に上手く利用出来ない悪条件でも有るのだろうか?後で訊いてみよう。


アキレス領に近付くにつれ草原から森林に囲まれてきた。徐々に 登り坂になってきた。山道になっている。直進が難しくなって左右にジグザグに進む様になる。これは待ち伏せされたら多大な被害を受けるだろうと思われる。

峠を越えるとそこからアキレス領だ。山裾から広大な畑地が続く。ジャガイモと小麦とトウモロコシの畑が整然と並んでいる。

周囲の山々から川がながれている。所々に貯水池が作られている。


 合間合間にクローバー畑が有る。作物を作るのを休ませてクローバーを肥料にするためなのだろう。進んだ農業がなされているみたいだ。街を守る壁が見えて来た。カンセコ領都より大きい街みたいだ。壁の周囲を掘りが囲んでいる。

 各方向から流れてくる川の水を集めてもあまりある幅と深さを誇っている。壁の中の街の川に水を供給しているようだ。

堀を超える為の大橋を渡るその時壁を見ると小穴が空いている。魔法を撃ったり矢を射る為の小穴だろう。

 この街を攻め落とすのはとんでもなく難しそうだ。入場門前でミレーヌ教会副神官長のトレッタ―様が出迎えて下さった。

そこからは馬車に乗って領主館に向かう馬車の窓から見る街の風景は賑やかで明るいものだった。

 市場通りを馬車で通るのは邪魔になるので、通りをひとつ避けて走る。裏道でも幅広く石畳の道も頑丈に作られているようで馬車の揺れも少ない。凄い、街造りが素晴らしい!。


 トレッタ―様はアキレス領特産品が欲しいようなことを言っていたがここへ来るまでの畑地の様子を見るに農業に関しては充実している気もするが、一体何が足りないと言うのだろうか?


 領主様に会ったら訊いてみなければなるまい。


 ここの領主館も町の中央の丘の上に有った。

 ここでも領主館はいざという時の住民の避難所になっていた避難所はここ以外にも10か所有るらしい。モスタ村もカンセコ領も住民の為の避難所がしっかりと用意されている。あの国王にしてはやるじゃないかと見直したのだが、後で訊いたら国王とは関係なく、大昔から領主に受け継がれているらしい。民あっての領主なのだから決して粗末にするなと言う教えに従っているのだとか

それもこれもミレーナ女神の教えによるものだとか。

国王一寸見直したのに損した気分になった。


 領主様はまだ30代の若い柔らかな笑顔が素敵な男性だった。

会談の席には聖女様だろうかまだ10代の少女が同席していた。

この女性がアテルイ村の診療所に赴任してくる聖女様だった。


「トオル君がポーションを作って診療所に納入してくれるおかげで、診療に費やす時間が大幅に減って凄く楽になったと、ドクタンさんが喜んでおられました。それでお願いがあります。彼女(メリーヌ)がアテルイ村に赴任するにあたって我が領の教会にギルドを通さずに直接ポーションを納品して欲しいのだよ」

領主のフアスト様が言った。

普通ならポーションが有るならば治癒師は必要無いだろうと言われそうだが領主様は治療とは薬を出しておけば良いというものではない、人と向き合って話を聞いてくれる治癒師の存在価値は計り知れないものが有る。との考えの持主で、好感が持てた。

そこで転送バッグ(今後転送機能付きマジックバッグをこう呼ぶことにする)を使って病状に応じたポーションを作って送って欲しいということだった。

俺に反対する気持ちは無い。

 「判りました。この転送バッグを主に使う方の魔力を登録します。使い方をお伝えしますので、転送バッグが必要な部署の実際に使う予定の方達に集まって頂ければ効率良く登録出来ますので

招集していただけると幸いです」

 「うむ、明日午後までにここの集会場に集めて置こう。よろしく頼む」


 その後俺が作って来た料理のお振舞いの時間になった。


 ここでもコメ、味噌、醬油を使った料理は大好評で、今後この領の特産品として成長させるものがないかとの協議会になった。


「それで、僕からも質問が有るのですが宜しいでしょうか?」


ここに来るまでに気になったことを聞いておこうと思った。

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