第17話  新料理試食会

 さあ、米、味噌、醬油を使った料理のお披露目試食会の日だ。

村役場の集会場には村のほぼ全員と来村していた冒険者が集まっていた。普段留守する時でも鍵をかける習慣のない村なので今日も鍵なんか掛けて来ていないだろう。そこで俺はその家の家族以外の人間が入れない様に結界を、村中の家に張って置いた。空き巣狙いを防ぐのだ。



サバの味噌煮に使うために【レシピ転送】を使って日本酒と味醂を錬金術で作っておいた。格段に美味しい料理に仕上がっていると思う。これなら村の名物料理にしても恥ずかしくないと思う。

これも玄米が見つかったおかげで、その米を精米して錬金術の原材料に使った。こうじ菌は錬金術が見つけたのか作ったのかは

わからないが、ひょっとしたらレシピに書いて有ったのかも知れない。



大鍋に作っておいた味噌汁や吸い物、小分けしないといけない物は村の婦人会のおばさん達に手伝って貰って

配膳が出来たところで試食会が開始された。


ワ村の事を教えてくれた冒険者のドワースイングさんも参加していたので醬油と味噌を使った料理をご馳走すると言う約束は果たすことが出来た。


村の人達の関心は魚を使ったアラ汁や味噌汁。そしてサバの味噌煮が大好評だった。そしてワサビと醬油で食べる刺身の新鮮な美味さに驚かれた。で次の料理教室は魚の味噌汁とお吸い物、サバの味噌煮の講習会に決まった。村の女性達の7割と食堂の料理人が参加すると言う。

一方で醤油や味噌を実のままで販売するのも実の皮が腐ると大変なので瓶とか陶器の壺に入れ替えて販売した方が良いと思うが手間がかかるのでどうしたら良いか商業ギルドのギルマスに相談したところ、商業ギルドが実のまま買い取って、詰め替えを専門に行う業者を募集すると言った。内職の会社を作らせて働き口を作るということだった。それなら俺がガラス瓶とか陶器の壺を用意しなくても工場の経営者に仕入れを丸投げ出来るから有難い。ただ、瓶代とか壺代は差し引いてギルドに卸すことになるがもともと容器代で儲けるつもりは無かったからそれでいい。余計な手間はかけたくない。スローライフ優先だ。

売れ行きが良ければ陶器工場とガラス瓶工場を村に誘致すると言う。

カンセコ領ではもうすでに領の名産品にするべく商人のミラネルさんと契約して大袈裟でなく世界各国に売り出す計画が動き出している筈だ。アテルイ村もぐずぐずしてはいられない。


診療所のドクタン先生も来ていた。隣りに知らない人が居て紹介された。隣の領で治療師の取りまとめをしている方らしい。

ミレーナ神教会の副神官のトレッタ―様と言う方だった。

そう言えば、ドクタン先生に初めて会った時に

「高齢なので引退したくて隣の領の領主様に代わりの治癒師を派遣して欲しいと要請している」と言っていたな、そのことでこの村に来ているのかな?


「トオル君と言ったね。1度我が領の領主様に会ってはくれまいかな?色々話をしてみたいと願っておいでなのだ。カンセコ領での大活躍も聞いておられるぞ。君にとっても、この村にとっても決して悪い話にはならない話だ。是非お願いしたい。


ドクタン先生もそうして欲しいと言っているようだ。


「判りました。ですがこちらの予定を全部すませてからでよければお伺いします」

「ああ。料理教室だとか言ってたね、結構結構、この村に支障が

ない様にしてから来てくれればいいよ。その際転送機能付きマジックバッグをわたしにも売っておいて手紙でいつ来れるか伝えて欲しい、転送機能付きマジックバッグも多めに用意して来てくれると有難い。我が領の各ギルドとも顔つなぎしておいた方が後々

の為に良いと思いますぞ」

トレッタ―様は俺のことも若造と侮ることもせず、1人前の人間として向き合ってくれた。


好印象だったので隣のアキレス領を訪れることにした。

トレッタ―様との会話の中でアキレス領も何かしらの特産品が有ったらいいのにとの思いがあるようなので。俺も何か考えて置こうと思った。


国王から貰った子供の落書きの様な地図によるとアキレス領はアテルイ村の西に50km歩いてから北へ向かう道路との交差点が有ってそこから北へ30㎞行くとアキレス領になる。道はその1本だけみたいだ。領の周囲は山あり谷ありで軍隊が容易に攻め込めない自然の要塞みたいになっている。逆に言うと、敵に囲まれると

籠城戦を強いられる地形だともいえる。なので、水や食料などは常に備蓄しているらしい。アキレス領に行ったことのある冒険者の人が言っていた。


アテルイ村から言うと近くにある大きな街はここだけなので、色々お世話になっているみたいだ。

ガラス瓶も陶器類もアキレス領の商業ギルドから仕入れているらしい。俺が注文したベッドもここに発注しているらしい。

人口10万人、この国では大都市だ。


モスタの森は国有地らしいがアテルイ村は国直営の村でもどこの領地でも無い独立した村らしい。それなのに良く今まで存続してきたものだ。


村の伝承によると3000年前に出来た村で、女神様の御力で天変地異にもめげず魔物にも負けずに細々と生き続けて来たそうだ。何度か王国に攻められて植民地化されそうになったが女神様の怒りを買って国が滅びそうになったらしい。そこで女神様からの提案で、不可侵条約が結ばれたそうだ。その時にモスタの森は国有地として森の自然の恵みは村人が自由に利用してよい事になった。


村の民は神に愛されし村の民と言われて国として手を出しにくくなったのだそうだ。


だから俺がこの森に転送された時に女神様の加護が発動したのだろうな。国王は女神の与えし加護を役立たずと判断したのだから、女神様としては面白くないだろうしね

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