第12話 ワ村にて

ワ村に着いた。村長さんの家に行って訪問した目的を伝える。領主様から頂いた紹介状を渡すと

「ドラゴンを倒したですと⁉」

驚かれたが、スザーナさんがワイバーンの群れを討伐したことを話して、俺が死体を取り出して見せると納得して、解体したワイバーンの肉をマジックバッグと共にプレゼントすると泣いて喜ばれた。

「私らの村には他の村と違って特産品と呼ばれるものが無くて貧乏で冒険者狩りの依頼を出す為のお金も無くてずっと肉不足状態でしてのう、子供達にひもじい思いをさせておりました。これだけの肉が有れば村の者全員が3年は肉を食べられるでしょう。有難う御座います。有難う御座います」

俺は黒瓢箪と場合によってはシットパンプキンを買わせて欲しいと伝えるとあんな役にも立たない物を買いたいなんて物好きな人も居るものだと変人を見る目で言われた。

これは明日にでも醬油の凄さを味わせてやらないといけないな。

スザーナさんに目配せすると俺の気持ちを汲み取ってくれて頷いてくれた。

その日はスザーナさんの実家に泊らせて頂いた。

「スザーナ、随分若い旦那さんを連れて来たね」とお母さんに誤解されて慌てて弁解するスザーナさんが面白かった。御免なさい。笑い事じゃ無かったね。スザーナさんが好きだと思っている男性に誤解されたら大変だもんね。

そういえば俺、スザーナさんの年齢を聞いていなかったな一体幾つなんだろう。まあ幾つでも色恋沙汰になどならないけれど。


翌日俺は村長さんの息子さんの案内で黒瓢箪の自生している場所に案内してもらっていた。スザーナさんは今夜の醤油料理を作るために下準備をしている。俺は俺で昨夜のうちに用意しておいたものがある。


黒瓢箪には外皮が真っ黒なものと焦げ茶色のものとの2種類有った。鑑定すると黒いのが濃口醬油、焦げ茶色のが薄口醬油みたいだった。俺は熟した実を全て買った。1個500デルだ。全部で800個有った。親木の傍に若木が有ったのでそれも買った。1本1万デルだ。この木は1本で実が生るものだったので助かった。

次にシットパンプキンの自生地だ。これは外皮が焦げ茶色のカボチャそっくりの実が蔓に生っている。中には白いものがある。白味噌かな。赤っぽいのも有る。赤味噌だろう。1個5㎏位だろう。

もっとも数の多い焦げ茶色の実を1個収穫して上から3分の1の位置に切れ目が見えたので蓋を取るように左に回してみたら思った通り蓋だった。そして中身は味噌だった。俺はマジックボックスからキュウリを取り出して味噌を付けて齧った。美味い!いい味だ。びっくりしている村長さんの息子さんに新しいキュウリを渡して食べてみてと促した。


「噓!信じられない。糞みたいなシットパンプキンの中身がこんなに美味しい物だったなんて!」

息子さん、(名前はステーブルさん)が驚いて叫んだ。

シットパンプキンは全部で600個有った。白と赤は約2割ほど有った。こっちは1個1000デルで買った。これは実の中に種があったので種で増やすことが出来る。


その夜の夕食は豪華なものになった。

ワイバーンのステーキ・ニンニク醬油添え。(ステーキ醬油を参考に作って置いた。時空間魔法で1カ月寝かせた状態になっている)

じゃがバター醬油(スザーナさん製)


パン(これは村の奥様方製)


醬油の黒ソイのお吸い物、俺製


ホウボウの味噌汁、俺製


サバの味噌煮、俺製



これで黒瓢箪(醬油)シットパンプキン(味噌)が如何に優秀な調味料なのかがワ村の皆さんに判って貰えたと思う。


「御領主のお考えではまずこのジャガバタ―醬油の美味しさを広めるために市場で売り出そうと準備中です。この村の特産品になると思うのでジャガイモと黒瓢箪、シットパンプキンを畑で増産

出来るように皆さんに頑張って頂きたいです」

スザーナさんの演説で村の皆さんが希望に溢れる顔色に変わった。


「シットパンプキン。味噌の料理は味噌汁の他にもキュウリに付けて食べても美味しいですよ。米が有れば焼きおにぎりにして食べたいのですがどなたかお米を知っている方はいらっしゃいませんか?」


残念ながら情報は得られなかった領都の市場に期待しよう。


良く洗ったキュウリを大皿に乗せて出した。味噌を別の皿に入れて置くと村長さんの息子さんのステーブルさんが飛びついていかにも美味しそうに食べるのでみんなが我も我もと殺到した。

「美味しい、これ、子供のおやつに出来るね手間いらずで助かるねえ」

子持ちの奥さんが言うと、手を出しかねていた女性陣と子供達が殺到した。糞カボチャと蔑まれていたシットパンプキンの味噌が日の目を見ることが出来た一時だった。


「トオル君、魚を使った料理私にも教えてよね」

スザーナさんが拗ねたように言う。何で領主館で出さなかったのかと思っているのだろう。

「あの時は急なことで考え付かなかったんです。帰ったら一緒に作りましょう」

「約束よ」


「これこれこんなところでイチャイチャすんじゃないよ」

スザーナさんのお母さんがからかう。

「別にイチャイチャなんかしていないわよ誤解されるからやめてよねお母さん」

「あ、スザーナお姉ちゃんお顔真っ赤!」

村の女の子がはやし立てる。

「もう知らない!」


スザーナさんは逃げた。

明日は早めに領都に帰ろうと思った。

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