第10話 カンセコ領主と醬油

 カンセコ領主館はワ村に通じる脇道を通り過ぎてとんでもなく賑やかな街に有った。街は10m以上の高さの壁に囲まれていた。

俺は徒歩で馬車の横で護衛を兼ねている。護衛の人達は馬で付き添っているものだと思っていたのだが。馬に乗っていた騎士はドラゴンに襲われた時、いち早く逃げ出して領主様に報告して応援を出して頂く任務にあたっているらしい。普段からこの辺の街道でドラゴンに襲われることなど無かったらしくて、急がぬ旅でないときは護衛は徒歩で、伝令係だけが馬に乗って移動していたのだそうだ。


 無事であったことを伝えるために2頭だての馬車の1頭を使って伝令に走っているので今は1頭だけでゆっくりと馬車を引いてくれている。この子にはスタミナポーションを飲ませておいた。


 「この壁は大型の魔物避けなんですか?」

盗賊とか隣国とかの戦争に備えて 300年前に造られたものだという。この壁には東西南北に門が有ってそこからの道から各地の商人が集まって来て、市が立って賑わっているとのことだった。


(ひょっとしたら味噌、米、醬油が手に入るかも知れないな)

一縷の望みを抱いた。


 領主館は丘の上に立っていて、その大きさは王都の城に次ぐ大きさだと言う。

各地からの商人が集まって宿屋や食堂などにお金を落してくれて領内の人間も市に店を出してそれなりに儲けているので領の税収入も半端じゃないそうだ。


 領主館に案内されて領主様に感謝された。ダリス様と言う領主様は40代のハンサムな方だった。13歳の俺に対しても威張らずに礼を尽くして接してくれる。


 会談の中で、なぜ【ワ村】に行こうとしていたのかを訊かれて


「僕の生まれ故郷の調味料の醬油を探していて、【ワ村】に育つ【役立たたずの木の実】というのがそうなんじゃないかとの冒険者の情報を確かめに来ました」

と言うと、ダリス様は執事さんにこう言った。

「【黒瓢箪くろひょうたん】の実が倉庫に眠っていたはずだが持って来てくれ」

どうやら【黒瓢箪】と言う実が噂の【役立たずの実】らしい。


「おまたせ致しました。お客様のお探しの実はこれでございましょうか?」

執事さんが持って来たのは名前の通り真っ黒な瓢箪だった。

渡してくれたその実を調べてみると瓢箪の口に当たる部分に木から収穫した時の枝がT字型に残っている。もしかしたらこれは蓋かな?引っ張っても抜けないので左に回してみたら上手く抜けた。

ネジは切っていなかったが、摩擦で水漏れしない栓になっていた。これが自然にこうなっているのだとしたら凄いことだ。

蓋を開けた瞬間ふわっと懐かしいかおりがした。紛れもない醬油の香りだ。皿を取り出してそれに少し垂らして味見をする。勿論鑑定して無毒なのは調べてある。

「これです。これこそ僕が探し求めていた醬油です」

「おお、それは良かった。で、それはどの様に使うのかな?」

「ええと、キッチンをお借りしても宜しいでしょうか?」

「料理してくれるのかい?良かったら我が家の料理長に見せて貰ってもいいかな?」

「はい構いません」

執事さんに案内して貰ってキッチンに向かう。

料理長さんは30代の女性だった。挨拶して一角を借りる。


「あのすみませんバターは御座いますか?」

「有るわよ。どんな料理を作るつもりなの?」

「ジャガバタ醤油です」

俺はジャガイモを取り出して自作のタワシで良く洗い、芽をくり抜いてこれまた自作のピラーで皮を剝く。

この世界では毒植物として貴族などは食べないみたいだ。

料理長さんも心配していたが芽と、青くなっている部分と、傷ついている部分を除去すれば心配ないことを伝える。

4個のジャガイモの1個につき4つに切ったジャガイモを鍋に入れ、ジャガイモが浸る位の水を入れて沸騰させる。弱火にして砂糖と醬油を適量入れて竹串がすっと通る位まで煮る。弱火で水気がなくなるまで煮てバターを加えて煮汁とバターを絡ませる。スマホで調べたら色々な作り方があったが俺がやりやすい方法を選んだ。今回は味見をして貰う為なのでジャガイモは4個だけ使った。

「もっとたくさん作る時は砂糖と醬油とバターの量を調節して下さいね」と言っておく。


さっそく味見をしてもらうと

「うわー、なにこれ美味しい。甘辛いところにバターが良く合ってるわ!美味しい、役立たずの実にこんな使い方があったなんて、勉強不足だったわ」

と、料理長さん。


食堂で待機している領主様の所へ料理長さんと運ぶ。実は料理長さんが作ったのもあるのだ。


食堂には領主様の他に奥様、お嬢様、執事さんが待っていた。

ジャガバター醤油は大好評だった。

食べたことの無いジャガイモ(この世界ではポイズットと呼ばれていて毒のある芋と言う意味らしい。

「この黒瓢箪の液体にこういった使い方が有るなんて思いもしなかった。これは我が領の特産品になるぞ」

喜んでもらって良かった。ついでに味噌と米について聞いてみたが

「ひょっとしたら……」

料理長さんが言いにくそうにしている。


「なんだ?何か心当たりが有るなら言いなさい」

「はい。コーメというのは判りませんがミッソというのは【シットパンプキン】の事かもと思ったのですが

「シットパンプキン」とは直訳すると【糞カボチャ】となる。なるほどあの見た目と匂いではそう思われていても仕方ないか。


「その実物はありませんか?」

俺は興奮を隠せずに聞いた。

「それも【ワ村】に自然に育つ植物です」

と執事さん。


これはもう行くしか無い!

お暇をしてワ村に行くと言うと


「彼女に道案内させよう。彼女はワ村の出身だ。もしミッソが見つかったらその料理法を伝授してくれないかな?勿論礼金はずむぞ」

「了解しました」

そしてワ村への2人旅が始まった。

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