第9話 旅は気ままにドラゴン退治

 村を出てから西へと歩く。この世界に来てからモスタの森と村しか歩いていないので道の風景を楽しみながら歩いて移動している。目的の村まで約200㎞。普通に歩けば不眠不休で50時間掛かる。でも人間が休まずに50時間も歩き続けるわけもない。日のあるうちだけ歩くとしても2時間ぐらいは休憩時間が必要だろう。

 なので、朝6時から夕方6時まで歩くとして休憩時間を差し引いて1日10時間歩くとして1日40㎞。到着まで5日掛かる。まあ順調にいけばだが。

 とはいえ、俺の場合は2倍の距離は歩けるだろうから3日以内に辿り着けるはずだ。馬車1台分の幅しかない道から馬車2台がすれ違える街道に出た。途中で1番近い隣のアキレス領に通じる交差点を通り過ぎると擦れ違う人も馬車も無くなった。やはりこの辺は辺境の地なのだと思い知らされる。


 野営地と思われる道の脇の広場に着いた。ここで休憩することにした。マジックボックスに入れて置いた氷入りの水で喉を潤す。昼食に作り置きして置いたスープと唐揚げを食べる。やっぱりお米のおにぎりが食べたい。本気で米を探そうと思う。


休憩を終えてまた歩き出す。その時上空を巨大な影がよぎった。

あれはドラゴンか?俺の行く方向に飛んでいる。

(本当にドラゴンと遭遇するなんてな)


見ているとドラゴンは急降下していった。何か獲物を見つけたのか?

ヒヒヒーン馬のいななきが聞こえた。誰かが襲われたのか?

俺はそっちの方に走った。

そこで俺はドラゴンが高級な馬車の2頭の馬にかぶりついているるのを見た。

周りには傷ついた護衛らしき男性が数名倒れていた。

これはやばい状況だ。助けなければ!俺は離れた所から鉄球を投げつけた。見事に頭部に当たって爆散した。ドラゴンの生体反応が消えたのでマジックボックスに収納する。


倒れている護衛達に駆け寄って振り掛けるだけで効果の有る治癒ポーションを振り掛けていった。このポーションの効果は上級+である。次々と息を吹き返してドラゴンを探している。

俺は「ドラゴンなら僕が討伐しましたよ」と言うと

「そ、そうだ姫様、姫様はご無事か?」

護衛兵の隊長らしき人が、慌てて馬車の中に声を掛けた。

「姫様!姫様、御無事ですか?」


「どうなったのですか?」

震え声で少女のような声が返ってきた。

護衛兵士の隊長らしき人が

「ドラゴンは討伐されました。もう出てきても大丈夫ですよ」


馬車からは姫様と呼ばれた少女がお付きの女性に手を引かれて降りてきた。ものすごい美少女だ。年の頃なら俺より2~3歳年上だろうか?

「こちらの少年がドラゴンを討伐して我々の怪我を高級なポーションを使って治療してくれました。

「噓!こんなわたくしよりも幼い少年が高価なポーションを持っていたり、ドラゴンを倒せる力を持っているなんて信じられませんわ!」



 うわっ、この子めんどくさい子だ。

 俺は少し離れた草原にドラゴンの死体を出して見せた。

驚いているのを放っておいて、瀕死の状態の2頭の馬に蘇生魔法を掛けて見せた。

 ヒヒヒーン、馬たちは起き上がった。ドラゴンに食われた部分もすっかり再生して俺に鼻面を摺り寄せて来た。俺に命を救って貰ったことが判っているようだ。俺はリンゴと角砂糖を出して与えた。ついでに桶にたっぷり水を満たして馬達に飲ませた。


「な、何ですか今の魔法は?お腹を食べられていたのに傷跡も残っていません!何も無かったように元気になっています!信じられません」

「単なる蘇生魔法ですよ。あと、このドラゴンは貰って行っても良いですか?」

「え、ええ……」

「それじゃあ僕はこれで失礼します」

「はい、って、ちょ、ちょっと待って下さい。わたくしの失礼な態度をお詫びします。どうぞお許し下さい。助けていただいたお礼もしておりませんのにこのままにしてはお父様に𠮟られてしまいます。あの、わたくしはカンセコ領領主の娘のナターシャと申します。貴方のお名前をお聞かせくださいませんか?」


「僕の名前はトオルです。この辺に有るワ村と言う村に行くつもりです。ではこの先お気を付けて」

 領主の娘と聞いてめんどくさい事になる予感がしてさっさと立ち去ろうとしたが護衛の人達が一斉に土下座して言った。

「我々の命を救って下さった恩人にお礼もせずにこのまま決別してしまっては御領主様に𠮟られてしまいます。せめて領主館まで御一緒に来て頂けませんでしょうか?是非是非お願いします」


 【泣くおっさんと御領主様令嬢には勝てぬ】というわけでカンセコ領領主館に行くことになったのである。


嗚呼、俺の醤油の実が遠くなる。

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