第29話 訓戒
いつものごとく、都を訪れた最後に
「おまえはこんな誰でも出来る仕事も、まともに出来ないのか!」
と
その
「先に部屋へ行っていてください」
と言い置いて、声が聞こえてきたほうへ行ってしまった。
言われたとおりにするべきなのだろうけれど、俺は何となく気にかかり、こっそり野分の後を追った。
野分の行き先は、屋敷の
俺は柱の
野分は二人に事情をたずねている。すると、二人のうち、立場が上と思われるほうが、
「いや、それが、
と説明した。
先ほどの怒鳴り声は、この男のものだったのだろう。相手が主家の姫君なので、
与八と呼ばれたほうの男は、ひたすら身を
ただ――
野分は、叱責していた男に向かって、きっぱりと、
「誰にでも出来る仕事など、この世には一つとして存在しません」
と告げ、首を横に振った。
上から
言われた男は、意表を
野分はさらに、声をやや
「
「あ、あの……は、はい」
「仕事の割り振り方そのものに無理がなかったか。教えれば出来ると判断したのなら、教え方が本当に充分だったか。あるいは、もっと別の何かが
「……はい」
次助と呼ばれた男は、他に言葉が出てこないのか、ただ
さりとて、
野分はそこで、ふっと表情をやわらげ、
「それでもうまくいかぬようなら……いつでも私に相談しなさい。どうすればこの問題が解決するか、ともに考えましょう」
と、包み込むような温かな
次助はぴしりと
「は、はい! 承知いたしました!」
と返事をした。そこにはもはや、苛立ちは見受けられなかった。
与八は、ありがたそうに野分を見つめている。これまでにも何度となく、
一連の光景に、俺は思わず
どきりとし、反射的にその場を離れようとしかけたが――思いとどまった。
こそこそした
立ち止まっている俺のそばまで、野分がやって来た。俺は正直に、
「すまない。どうしても気になっちまって。怒鳴り声だったから、まさか危ない目にあったりしねえかって、それも心配になって」
「構いません。見られたら困ると思っていたわけではありませんから。あくまで私の役目であって、あなたには関わりのないことだから、先に行っていてほしいとお願いしただけです」
俺たちは改めて、野分の部屋に向かうために二人で廊下を歩いた。
その途中で、彼女はぽつりと、
「先ほど怒鳴っていた者は、百姓の娘や
「え?」
「だからこそ、私が言うよりほかにないのです。……これは決して、よいことではありません」
複雑な口振りでそう語って、困ったように小さく苦笑する野分は――十四という年齢を、軽々と
公家の娘として生まれ育っても、この年でこんな風に振る舞える人間は、そう多くないだろう。いや、
俺もまた、
「おまえ一人で
「……ええ。きっと、そうなのでしょう」
そっと息をつく野分に、俺のほうが無力感を覚えた。
あえて「思い上がり」という強い言葉を使ったが――野分自身も、そんなことはとうに分かっているのだろう。
俺が野分にしてやれることは、あまりにも限られている――そのどうしようもない事実が、やるせなかった。
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