第27話 使い
予想通り、
その影響のせいばかりでもないが、
俺が元々は武家のお
かと言って、
俺はずっと、
もっとも――本当に
そうして、都から戻ってから六日たった日。
内心ではいろいろと思っていても、表面上は何事もないかのように仕事をこなし、自宅へ戻る道を歩いていると。
何やら、里全体がざわついているのに気づいた。
何かあったんだろうか、と首を
「あ、あの、都から人が来てるんだが。
と告げた。
俺は、どきりとすると同時に、
都で姫君の治療に当たったことは、里では話していない。公家の姫君を治療したなんていう話は、かえって里の人たちに「本当にこの人は里に居続けてくるれるだろうか」という不安をあたえかねない、と判断したからだ。
油断していた。「里の人たちには知られたくないから」とはっきり九護家の側に伝えて、来ないでくれるように
しかし、何の用なんだろう。
俺は急いで、小十郎とともに甚右衛門さんの家に向かった。
着いてみると確かに、それなりの家の使いだと一目で分かる男たちが、前庭で甚右衛門さんと話していた。甚右衛門さんの家の人間だけでなく、里の人たちもぞろぞろと、それを遠巻きに見守っている。
甚右衛門さんは俺の姿を見ると、
「早く来い」
と手招きした。使いも振り返って俺に気づき、こちらに向かってさっと礼をした。
俺がそばまで行くと、甚右衛門さんが、
「この方々がうちを訪ねてきて、『燎玄殿の家はどちらにあるのか?』と聞かれたもんだから、こりゃ一体どういうことかと思ったら……おまえさんの帰りがちょっと
と、
こうなっては、さすがに
「……はい。
「いや、
甚右衛門さんの言葉に
「
と、かしこまった口調で用件を伝えてきた。
俺は
「いえ、謝礼なら九護家を
「あの時の謝礼は、野分様が本復される前でしたし、あわただしい中だったので、充分とは言えぬ物しかお渡しできませんでしたから。我々は大納言様から、あらためて礼をするように
その言葉とともに、別の使いの男が一歩前に進み出た。
俺が
「分かりました。ありがたく
そう答えると、使いたちの顔に
里の人たちの視線を一身に
俺は自宅へ戻ると、謝礼として受け取った箱を、ゆっくりと開いた。
使いは箱の中身を、「野分様がお選びになった物です。大納言様からの
「……薬?」
姫君とお話しした時の記憶が、よみがえった。
高価な薬は、たとえ金があっても買うのに勇気がいる――そんなことを、俺は何の
起きる
それでも、安価なら万一に備えて買うが、高価だと――もし
しかしながら、
備えとして、手元にあれば心強いのは確かだが、迷わざるを得ない。高価な薬一つ買う金で、安価な薬なら量も種類もたくさん買いそろえられる、と思うと。
そんな、買うべきか迷う薬の一つとして、この薬の名を
俺は薬と一緒に箱に入れられていた、姫君の文を開いた。
そこには
背中を押されている――はっきりと、そう感じた。
軽谷に戻れと言われた時と、同じだ。
こちらはいいから、あなたはあなたの道を行けと告げられているような、力強くも温かい感覚。
里の人たちも、俺を支えてくれていることに変わりはないが――それとはやはり、違う。
ずっと、こういうのを求めていた気がする。
文には他にも、いつかまた会いたいということや、会うのが無理なら文のやり取りだけでもしたいということ、医術についてもっと教えてほしいということなどが書かれていた。
読み終えると、俺は――再び都を訪れるのは当分、先になりそうだが、明日にでも文の返事を送らなくては、と考え始めていた。
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