第21話 新天地
俺は
家財道具に関しては、家の主の
そこで、足りない分だけ人から
薬や
費用は俺の手持ちの金ももちろん使ったが、さすがにそれだけでは足りない。その足りない分を
「少しずつでも返してもらえれば、それで構わないから」と言って用立ててくれたが、信用のためにも、やはり早めに返したい。
一人で暮らすとなると、
俺から
その中には、怪我人を手当てしていた時に俺のやり方に感心していた、あの
あの時は名前すら聞かずじまいだったが、「
苗さんは夫だけでなく、すでに割と大きな子供も四人いる人なので、俺はもっぱら彼女に頼っている。
俺に手を貸そうと近づいてきた女の中には、まだ
かと言って、断ってばかりでは失礼とか冷淡とか受け取られるかもしれないので、
そんなこんなで、
俺は
「そろそろ一度、都へ行って新たな
と申し出た。
甚右衛門さんは、取り立てて
「そうか。前から話してたからな。最新の医術について知りたい、他の医者からも学びたい、と」
「学ばなければ、いま治せない病は、ずっと治せないままですから。たとえ、軽谷の人たちがそれでいいと言ってくれても、俺にとっては……」
そう言って俺が首を横に振ると、かたわらで話を聞いていた
「相変わらず、熱心ね。誰もあなたを止めたりしないから、行ってきなさい」
と、笑顔で後押ししてくれた。
俺が頭を下げて、
「では、里を三日ほど
と伝えると、甚右衛門さんから苦笑まじりの忠告が返ってきた。
「こちらのことは気にしなくていい。早く戻らなくてはなどと思っていたのでは、学ぶべきことも学べんぞ」
甚右衛門さんの家から自宅――田鶴さんが残した家へ戻る途中の
二人とも、手にかごを
娘のほうが先に俺に気づいて、
「先生!」
と声をあげたので、俺は笑顔で彼女たちのそばまで行って、話しかけた。
「苗さん。ちょうどよかった。しばらく都へ出かけることになったんだ。その間は、料理とかも必要ねえから」
「あら、そうなの。そのうち折を見て都に……って言ってたけど、ようやくいい
「ああ。向こうの医者とは何度か
俺が
「それはあなたが気にすることじゃないわよ。元々ここは、医者そのものがいなくて、それが当たり前だったんだから。一日も欠かさず里に居続けてくれなんて、あなたに望む人はいないし、望めやしないわよ」
口先だけという感じのまったくない、
この人がいるおかげで、俺はすでに、ずいぶんと助かっている。あまり当てにし過ぎてはいけないのだろうけれど――ありがたい。
都行きのおおよその日程を伝えて、俺は苗さんだちと別れ、再び自宅へ続く道を歩き出した。
ちなみに。俺が話し方を、今のような
有力者である乙名衆ならば、都へ出かけた時に医者へ寄って体の不調を
だが、里の半数ほどは、医者を
そんな状況なので最初のうちは、いくらこちらが「どこか具合の悪いこところがあれば、何でも気軽に相談してください」と言っても、なかなか「診てくれ」と望む者が現れなかった。
ある時。たまたま、田の
幸いにも、しばらくしたら症状がやわらいだし、薬も処方しておいたのだが、本人の話をよく聞くと「数日前から、時々体調がおかしい時があった」という。
なぜ俺に相談しなかったのかの理由が「この程度で医者に診てもらってはいけないと思ったから」だと分かり――俺は、やり方を根本的に変える決意をした。
病は症状が軽いうちに対処したほうが治りやすいこと、俺は相談を受けただけで金を取ったりしないということ、病の治療に必ずしも薬が必要なわけではないこと……そういった
そして話し方も。
そうした工夫でようやく少しずつ、相談に来る人や、体調不良で呼ぶ人が増えた。
ひょっとすると
今となっては遠い過去のようになってしまった地のことを、久し振りに思い出しつつ、俺は都へ行く
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