第16話 西へ
俺は家に戻ると、手早く荷物をまとめ、それを
そして急ぎ足で
振り返らず、
そうやって歩き続け、
ひょっとしたら
もちろん、まだ完全には気を抜けない。警戒を
父親と母親には、
それで
何とも分からないが、あきらめてくれたのなら、どちらでもいい。
すべてを振り捨てて、身軽になり――全身が
これで存分に、
いや。七見家という後ろ
七見家の跡取りだったからこそ出来たことも、これからは出来なくなる。おそらく、すんなりとは行かないことも山ほど出てくるに違いない。それでも――。
やるしかない。己のすべてを
俺は
出来るだけ沙南から離れたいから、というのがまず第一だが、なぜ他の方角ではなく西なのかと言えば、都があるからだ。
都なら、最も進んだ医術の知が集積しているはず。
本音を言えば、
とは言うものの、いきなりそんな所に乗り込んで医者の仕事を始めようとしても、簡単に受け入れてもらえるとは思えない。そもそも、どこにそういう土地があるのかも分からない。
取りあえず都へ行って、医者として働けるような土台を作って、それからまた考えよう――鷲之江にいた頃から、そんな計画を
ところが、あと一日か二日歩けば都、という所で――。
「
俺が
「この近辺の
と、さらに
そんなことになっているとは知らずに町に足を
あまりにも思いがけない
捕り物のあった町は、ここからあと少し先の、都からも近い所にある。町の中でも寺社の門前は特に
いや。都の近くだからこそ役人も、
行商に礼を言って別れ、俺は再び歩き出したが、進路は変更した。
そんな
迂回できる道のりとして行商は、街道をそれて、
少しばかり遠回りという程度だし、迷うこともないような分かりやすい道だそうだ。
言われたとおりに歩くと、やがて村里が見えてきた。あれこそが軽谷だろう。
俺は里で最も大きな家を探し、そこを訪ねた。こういう時は、村里の有力者を
男は
身なりなどからして、おそらくこの男は、家の主や子供などではなく、
「誰か来たのか?
と言いながら、家の中からこちらへやってくる人物がいた。
年齢は四十になるかならないか、という感じだ。
小十郎と呼ばれたほうの男は、
「はい。旅のお方に、道を聞かれましたもので」
と答えている。
家から出てきた男は、俺の
「私はこの家の主で、
と、
俺は苦笑を浮かべ、
「実は、行商の者から道を教わってこの里まで来たのですが、念のために改めて確認しておこうと思って、こちらへ参ったのです。何せ、西国自体が初めてなので」
と断って、ここが軽谷の里なのかや、都へ行くための道を聞いた。
「ああ。それならここから……」
と、甚右衛門は
「おーい! た、大変だ!」
と
甚右衛門に比べるとまだ若いその男は、息を切らせながら俺たちのそばまでたどり着くと、
「ぞ……
と告げた。
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