第14話 水葬
俺は、
なぜなのかと父親は
「どうも、私と雛戸のお
と話すと、すんなり
勝手にこんなことをしてしまったら、お方様を傷つけてしまうかもしれない。それでも、もはやあの館を訪れる気にはなれなかった。
行ったら最後、逃げ出せなくなるのではないか――そんな恐怖感が、今もある。
お方様は、
お役目を
逃げている――自分でもそう思うし、人から非難されても仕方ない。
非難したければ、すればいい。
いったい俺に、あれ以上何が出来ただろう。俺がお方様のそばに居続けるほうが、おそらく、
俺に出来るのは――お方様が
俺の縁組の話は、父親と母親の間で少しずつ、着実に進んでいるようだった。
母親が、
女を妻に
両親に事情を話して、あきらめてもらおうかと、何度となく思った。
だがそんなことをすれば、今度こそ父親は、俺を「我が子ではない」と見なすに違いない。怒りと失望で、俺を七見家から
俺とて、七見家を
何か方法はないか――そう迷って親に言えずにいる内にも、時は過ぎていく。
嫁に選ばれた相手にだけ打ち明けて、事情を分かってもらうという手も考えた。
しかし、仮に理解してもらえたところで、相手の人生をつぶすことに変わりはない。
俺の保身のために他人を
それに、たとえ形だけでも夫婦になってしまったら、
一日二日ではなく、ずっと同じ寝所で――それを想像するだけでも、女との縁組は
いや――相手が男でも、無理だろう、そんな暮らし。
どうするべきか決めかねたまま、俺はこれまで通り、仕事と学びを続けた。
「裏手」に足を
いつも
とは言うものの、彼女に用があるわけでもないから、こちらから探す理由もない。それでずっと、調べるでもなく
しかしながら、あまりに長く姿を見かけないと、さすがに気になる。そこで、
「蓮華ならここ最近は、よく向こうにある
と教えてくれた。
河原まで行ってみると、
俺が近づくと、気配を感じた蓮華が振り返った。
蓮華は小さく
「来てたの? 久し振りだね」
と明るく言ってきたが、その声も表情も、以前とは何かが違う。
俺は蓮華の隣に座り、たずねた。
「何を見ていた?」
「別に、何をってわけじゃないけど……見に来ちゃうのよね、この川を」
「なぜまた、川なんだ?」
蓮華は、一呼吸ほど間を置いてから、ぽつりと答えた。
「あたしの子を……ここから流してあげたから」
それは、暗くも明るくもない
俺が、言葉の意味をつかみかねていると、蓮華は続けて、
「
「……子供の父親は、誰だったんだ?」
「名前は知らない。お武家様みたいだったけど、たぶんその中でも
「その相手は、このことは……」
「偶然また会った時に、子供が出来たことを言ってみたら、『どうせ他の男との間に出来た子だろう』って疑って、信じてくれなかった。その後は一度も会ってない」
蓮華の言い方は、どこまでも
蓮華はこちらを見ずに、
俺は、心が波立ちそうになるのを
「なぜ、俺に言わなかった?」
「あんたに言うようなことじゃないじゃない。病なわけじゃないし、単なる、あたしのことでしかないし」
俺は何も言い返せなかった。
言い返せなかったが――胸の内に、真っ暗な
蓮華は、俺に気をつかって言わなかったのかもしれない。悪意も俺を
ただ、そうだとしても――。
医者にとって、体のことを言ってもらえないほど、
俺は、蓮華をなじりたくなる気持ちを、全力でねじ伏せた。
気づけず、言ってもらえなかった俺が未熟なだけだ。蓮華を責めるのは、
蓮華は少しも
「あたしを育ててくれた男がね、坊主から聞いた話を教えてくれたの。海の向こうには
蓮華は、
俺の中の淀みが、すっと消えた。
あとには、
事情を知ったところで、俺に何か出来ただろうか。
もっとこの手に、力が欲しい――
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