第12話 いきさつ
勘太に何があったのか、何を思っていたのか――今となっては、確かめる
俺が接した限りでは、「裏手」の住人の中ではむしろ
人は、他人に対して何でもさらけ出すわけではない。知られぬように内に
俺は何も教えてもらえず、気づくことも出来なかった――その事実は、そこはかとない無力感をもたらした。
ただ、その反面、勘太を治療したこと
目の前に
病んでいる者がそこにいる――俺にとって重要なのはそれだけで、他はどうでもよかった。
治療対象がどんな人物であろうと、治したことで何が起きようと、治療しない理由にはならない。
たとえ、勘太が
そもそも俺は、自分が病人を
勘太に殺された本人や、その身内からしたら、俺は大悪人だろう。とんでもない悪事を働いた、と思われても仕方ない。
「助ける」なんていう
もしかすると、結果として誰かが助かっていることは、あるかもしれないが。
俺は、医者としては正しくても、人としては間違っているのかもしれない。
そうだとしても、どうでもよかった。
俺は「裏手」に行って、
しかし、その回答は、
「ここに来る前の勘太のことは、俺も知らねえ。二十年近く前にふらっとやって来て、住み着いた。その後は……おまえが見た暮らしぶりと、そう変わらねえ。たまにどこかで金や物を
というものだった。
ここの住人は他人の内情までは
俺が
「あいつがやって来た頃だと、ちょうど
「
「ああ。勘太が元は武士……というのは、さすがにちょっと考えにくいが、戦が起きれば、しがない
権八は遠く
沙南のはるか西には都がある。
その都を本拠とする幕府は、遠く離れた東国にも支配が行き届くよう、
西国の守護家は、幕府にお
関東府には公方様がいらっしゃって、関東管領の補佐を受けながら、東国の支配を行なっておられた。
公方様は都の将軍家の血を引いておられる。にもかかわらず、公方様は以前から将軍家と折り合いがよくなかった。ご自分が将軍家から
管領様はそんな公方様をお
元々お二人は、そりが合わないところがあったため、関係はあっという間に修復不可能なものとなり――ついには、戦が始まった。
やがて、幕府からも公方様を
結局は、公方様の自害で一応の幕となったが――その後も
七見家も元々は、師澤家とともに雁岡に
しかし戦で関東府が実質的に機能しなくなると、他の守護家同様に、師澤家も領国にお住まいになられるようになったので、
俺が生まれたのは、それから
ただ、その後の各地での
そういった間接的な接触だけでも、戦の
父親が俺を「いまだ修行中の身」として
うちの流派は、
東国はいまだ、
権八が
「『裏手』は、師澤家が家臣を
と言って、周囲に視線をやった。
視線の先には、ぼろきれのような衣をまとった者もいれば、きらびやかな衣を着て、これ見よがしに
力なく、うなだれている者もいれば、何の
いったい彼らは、何があって、ここで暮らすようになったのか。その
戦などなかったとしても、はたして、勘太がここ以外で
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