第11話 凶報
「裏手」に足を
蓮華は好奇の
「あんた、本当に
「医者の仕事のために来てるんだから、それで当然だ」
「たまには息抜きも必要でしょ」
そう言って蓮華は、俺の
「何のつもりだ?」
何となく意味は分かっていたが、あえて俺がそう問うと、
「あたしを買う気はないの?」
という、
ごく普通の男なら、こういう女に対して――そういう感情や感覚が自然とわいてくるものなのだろうか、やはり。
俺には、まるっきり分からない。どうやったら女をそんな風に見ることが出来るのかが。
蓮華の顔立ちを見て、かわいらしいとは思う。思うが、それ以上いったい、何を思えばいいのか。
俺は蓮華の腕を、そっと自分の腕から
「申し訳ないが、そういうことに金を使ってられるような身の上じゃないんだ。それに、時間も
「あんた、名のある医者の家の
「そういう家だからこそ、何でも好きに金を使うというわけにはいかないんだ」
単なる言い訳ではない。実際、父親は俺の金の使い方に対しても目を光らせている。
俺がここに来るようになってからは、それがさらに
蓮華はきょとんとした顔で、
「めんどくさいね、それは。……あれ? ちょっと待って。あんたが自分の仕事で
「医者として治療はやってるが、まだ修行中の身でもある。それに、
「そうだとしても、あんたの働きで稼いだお金の使い方にまで、他の人間が
蓮華の問いに、俺は――考え込んでしまった。
これまで、自分の暮らしを他人と比べたこと自体があまりなかったが、確かに、うちの親は「普通」とは言い
一方、蓮華自身はと言えば、
そしてその男は、ある日ふらっと、いなくなったという。
そんな身の上の蓮華から見たら、家にがんじがらめな暮らしなど、奇妙に感じるのも当然か。
俺は他に言葉が出てこなくて、ただ一言、つぶやいた。
「変、か……」
「あたしから見たら、変だよ。ここでは誰も、他人のお金の使い道になんて口を出さないし、もしそういうことする奴がいたら敬遠される。まあ、人から『こういうことに使え』って言われて
蓮華の言うとおり、ここの住人は、他人の行動にあれこれ
働くも働かないも、稼いだ金を
物思いにふけっていると、蓮華は再び、しなだれかかってきて、
「どう? 少しは好きなことにお金を使ってみない?」
「……たとえ好きに金を使えても、そういうことには使わないから」
そう断って、蓮華の体をそっと押しのけると、彼女はどこか
「やっぱり、あんた変わってるね」
と言って、
そこへ――。
「来たか。ちょっと、話しておきてえことがある」
と、俺に向かって言ってくる人物がいた。
相変わらず、
何事かと思っていると、権八は感情を込めずに告げた。
「ひょっとしたら、おまえもすでに知ってるかもしれねえが……
何か、聞き間違えたのかと思った。
勘太というのは……昨年、熱病にかかっていたところを俺が治療した男だ。
今はすっかりよくなって、貧しいながらも、この「裏手」でそれなりの暮らしをしていた――はずなのに。
どうして、という気持ちがわくのと同時に、十日前、
犯人がどんな人間だったのかまでは気にかけなかったので、ろくに調べもせずにいたが、死罪に処されたことだけは聞いていた。
あれは勘太だったのか――そう気づいたものの、どこか遠い所の話のようで、実感が
頭の中で、勘太、殺人、死罪……といった単語だけが、ひしめきあっていた。
それでも俺は、取り乱しそうになる心を
「犯人は、気が
「事件を起こす前日も、勘太はまともだった。
「なぜ……」
「さあな。もしかすると、
権八の口調は、どこまでも淡々としている。
横で聞いていた蓮華が、不思議そうに権八に、
「勘太が誰かに
「そこまでは分からねえ。
二人がそんなことを語っているかたわらで、俺はただただ、
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