第5話 対立
「裏手」から自宅に戻ると、
父親は俺を自室へ呼び、自分の正面に座らせた。そして前置きもなしで、いきなり、
「勝手なことをするな」
と、
治療のためには、家にある薬を使わざるを得ない。
俺は
「
「私だけでなくおまえも、
「ご奉公も学びも
「ならず者や
俺は
父親がこういう考え方の人なのは、
「貧しい者に
「それは、善良な者が相応の事情があって
「それでも、医術の
父親の視線が、
少しも
「なぜだ?」
「病が何に起因しているのかが、暮らしにゆとりのある方々とは異なっているからです。予想通り、食べ物や
これは興味深いことです、と言いかけた俺を父親が
「もういい。そんな理由なら、診てやる必要はない。七見家は武家の方々をもっぱらに診るのだから、貧しい者の病など、知ったところで意味もない。すぐにやめろ――それと、おまえが他の
と、さらに重々しい声で問いただしてきた。
そっちも気づかれていたか――俺は、どうせ理解されないだろうと思い、わずらわしさを
「確かに、ご教授願えないかと
「当たり前だ。
「それでは医術そのものの発展は
父親の目が、冷ややかなものに変わった。
「おまえは、うちの流派を守る気がないようだな。おまけに、私が教えたことだけでは不満だ、と」
「私は医者となり、病んだ者を治したい。ただそれだけです」
父親はしばらく
「……
その言葉に俺は、二重の意味を感じ取った。
うちの
私の子ではない、という意味と。
俺もまた、これまではあまり考えないようにしていたことを、強く意識した。
俺の父親は、この人ではないのではないか、と。
父親は姿勢を正し、
「うちの流派を継ぎたいなら、貧民どもの治療をするのも、他流派から学ぶのもやめろ」
と言い置いて、立ち上がり、部屋を出ていった。
俺の中にもまた、父親へのあきらめが生まれつつあった。
後戻りは出来ないし、しようとも思わなかった。
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