第2話 恋心
相手は、父親の
俺は、もっとこの人に近づきたい、追いつきたいと思った。それで、よりいっそう意欲を持って医術を学んだ。
子供らしい遊びには
いつの間にか、六郎殿を追い越してしまった。
俺の医術の腕が六郎殿より上なのが、六郎殿本人や他の兄弟子にも
六郎殿の
俺は、何が起きたのか分からなかった。
分からないまま、それでも
そんな俺たちの様子をはたで見ていた別の兄弟子が、そっと俺に言ってくれた。
「子供に負けたもんだから、
俺は六郎殿と
「どんな分野でも、同じ道に進んだ他人と比べて自分が上か下かは、気になるもんだ。特に六郎は、
そういうものなのだと、俺は理解した。
理解はしたが――六郎殿への気持ちは、急速にしぼんでしまった。
なんだ。こんな人だったのか。
六郎殿が、少しも特別には見えなくなった。
それまでは、俺よりもずっと大きく、
こうして、俺の初めての恋は終わった。
やがて俺は段々と、父親の助手としてではなく、一人で病人を
と言っても、重病人や急病人を診るのはやはり父親だ。俺は軽い症状の
俺のそばから父親の目がなくなった
俺とそういう関係になりたいと思っておられるのだということは、じきに分かった。
そのほとんどは、
俺はどれも、
断られると、みんな
同じように望む方が他に何人もいることや、父親が
俺に無理を
実際、父親は俺が医術以外のことにかまけるのを
俺と同じ年頃の武家の子供だったら、同じようにはいかないのではないだろうか。
断ること自体が難しいに違いない。引き下がってもらえそうな理由がないからというだけでなく、上の人間に
そして、本当に断ったら――どんな目にあうか分からない。
俺も、色恋に興味がないわけではなかったが、これでいい。
誰か一人だけを選べば、血みどろの争いが起きるのが目に見えている。そんなものは望んでいないし、巻き込まれでもしたら、かなわない。
俺がそういう仲になるしたら、誰も逆らえないような立場の方でなければ無理だろうな――
それに、どの方も、ある程度接していると、ふっと――なんだ、こんな方だったのか、と気づかされるのだ。
自分の姉や妹に、
「女の
と
家臣に、
「遅い! もっと早く出来んのか!」
と
身分の低い者を
そんな姿を
そういうわけで、俺は誰に望まれても応じないまま、月日を過ごした。
ある日。
守護所へ行って
まだ
二人は庭にある蔵の
あの少年は確か
俺ほどではないが、整った
そして、彦五郎様とはそういう
俺は、何となく
福王丸は娘に、
「私が真に
と、
娘はうれしさと
「うれしゅうございますが……私とあなた様とでは、身分が違います。妻になどとは……」
「それは……確かに、親や周りの者が許してくれないかもしれん。しかし、側室としてなら何とかなるはずだ。父上に
福王丸の力強い言葉に、娘は涙ぐみながら答えた。
「……はい。お待ちしております」
俺はそっと、その場を離れた。
廊下の途中で、福王丸とは別の少年が、急ぎ足でどこかへ向かうのがちらりと目に入った。
あの少年もまた、彦五郎様の側近くに仕えている一人のはずだ。
それから五日後。
福王丸が彦五郎様に
理由は、福王丸が彦五郎様を毒殺しようとしたから、とのことだった。
だが、不審な点がある。
福王丸がどこからどうやって毒を手に入れたのかが、まったく分からないのだ。
さらに、福王丸自身には、毒に関する知識はほとんどなかったらしい。
協力者がいるのなら、
福王丸と話していた娘は、いつの間にか館から姿を消していた。
自分から
何が本当なのかは分からない。
彦五郎さまご本人にお聞きしても、おそらく、本当のことなどおっしゃらないだろう。
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