――奇獣流転前日譚―― その魚は水を求める
里内和也
第1話 生誕
自分は将来、父親の
教わったことは少しの抵抗もなく、すんなりと
どんどん医術を習得していく俺を見て、父親――
「よしよし。さすがは我が息子だ、
と、ほめる。俺はそれがうれしいから、さらに医術の習得に精を出す――その
父親は病人を
七見家は代々医者として続く家系だが、同時に、武家の
師澤家は幕府から
そんな身の上なので、診に行く先も多くは武家だった。
中でも、
そういったお
医術を身につけるのも、書物を読んだり話を聞いたりするだけでは限界がある。父親は実地で学ぶ重要性を考えて同行させたのだが、さすがに行く先々で
そのたびに父親は、
「私の目の黒いうちに、我が流派の跡を継ぐに
と説明していた。
それを聞くと、
好奇の目は、俺が成長するにつれて強くなった。そして、
「本当に親子なのか?」
「養子ではないのか?」
そう言われる理由は、俺も分かっていた。
父親とは、顔立ちがまるで似ていないのだ。
父親だけではない。母親もまた、似ているとは言い
祖父母にすら、似ていないらしい。
俺の
では、両親はと言えば――どう見ても、
のみならず、顔の
血のつながった親子に見えないのだと気づくのに、そう時間はかからなかった。
俺でも、こんな「親子」がいたら――養子ではないかと疑いを抱くだろう。
だが、父親も母親も、俺に何の説明もしてこない。本当は血がつながってないとも、おまえは確かに実の子だとも。
俺が血のつながりに疑問を抱いている
父親と母親の間に俺が生まれるまでの
それによって俺は、自分の立場や、両親にとって俺がどんな存在なのかを理解した。
俺の父親である七見柊斎は、七見家の当主だが、いわゆる
祖父の子供は、俺の母親――
うちの家に限らず、医者は実の子ではなく、門弟に後を継がせることが割とある。
医者という仕事自体が、一定以上の医術の腕を
出来れば実子に継がせたいという気持ちも、ないわけではないだろう。
だがそれよりも、己の流派の
武家ならば、当主が才覚に
七見家は武家に仕えているが、そういった点では考え方が根本的に違うと、武家の方々に接しているうちに段々と気がついた。
それでいて、
父親と母親が
祖母も、当時すでに亡くなっていた。祖父が三十代
両の親が亡くなったのだから、家は婿の柊斎が
母親は
おまけに、縁組した後も自分の夫を「うちの門弟」として見ているようなところがあった。
そのため、家のことに関しては、母親は祖父の代わりのようにあれこれと積極的に意見していたという。
それでも、父親と母親は
二人がぎくしゃくするようになったのは、子が一向に出来なかったからだ。
縁組して二年たち、三年たち――それでも
跡取りをどうするかが問題になってくるから、というだけではない。子が出来さえすれば、七見家の入り婿である己の立場がもっと確かなものになる、と
そんな父親に、母親の一言が追い打ちをかけた。
「別の婿を迎えたほうがいいかしら」
父親と母親の間に、深い
その後の二人は、対立と和解の
形だけの夫婦のように見える時もあれば、なごやかに会話しているのを見かけることもあったと、兄弟子の一人は語っていた。
そうして、跡取りのことを
神仏の姿でも見たかのごとく、父親は
周囲の人間も、奇跡的なことだと驚き、喜び、祝った。
母親は順調に
生まれたのが男子だったことを、父親は喜んだ。
それのみならず、うまくすれば我が子に跡を継がせることが出来ると思い、早々に医術を教え始めた。
俺が
だが、俺と向き合って医術を教えることは――自分と似ていない容姿を
父親の
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