蝉さえも

澳 加純

第1話(一話完結)

蝉さえも 昼寝決め込む 午後1時


  高熱ねつに焙られ 我もうつせみ

  






夏真っ盛り。

お暑うございます。



もう少しセンスのある挨拶が無いものかと思いますが、暑さに茹った脳みそには、そんな気の利いた言葉が浮かんで参りません。


わざわざ口に出したくはないのですが、ホントに暑い。いっそアイスクリームになって、溶けてしまいたくなるほど暑いのですもの。


10年に一度の暑さだの、災害級の暑さだの、謳い文句は色々あれど、酷なほど暑いのは変わりません。要は、危険なほど気温が高いということ。熱中症警戒アラートが、そこここで鳴り響く毎日。天気予報の日本地図、真っ赤に染まっていますものね。最初、冗談かと思いましたけれど。

あれを見るたびに、ため息が出ます。

暑い季節が好きな方もおいでになるとは存ますが、生来暑さが苦手なわたしには、拷問のようなもの。おまけに今年の夏は、平年よりがんばっているダブル高気圧のおかげで気圧の変動も激しく、俗に「気象病」とも呼ばれる頭痛持ちにはつらいものがあります。

天候の荒れも線上降水帯でしたっけ、さらにゲリラ豪雨だのと、こちらも風情を解さないあばれものが、大きな顔をしてまかり通っているし。

ラニーニャ現象もありましたね。


その上、地震!


温暖化による、地球の逆襲でしょうか。ああ、また目が回ってきました。



ここ数年、夏の暑さが尋常ではなくなってきた頃から……のように記憶している(わたしの記憶なのでアテにはなりませんけれど)のですが、蝉の鳴き方が変わってきたように思います。

あ、鳴き方といっても、ミンミンとかジィィとか聞こえていたのが、リンリンとかスイッチョンスイッチョンになったとかじゃありません。そうだったら、わたしの耳や脳の方に問題ありです。


問題なのは彼らの鳴く時間帯が、早朝と夕方の涼しい時間に移行している気がするのですよ。


わたしの子供の頃、はるか昭和の時代ですけれど、蝉は競うように鳴いていました。朝方の涼しい時間帯が過ぎる頃、蝉たちはいっせいに鳴きだし、日暮れまで輪唱は盛大に続いていました。昼日中は、木々からまるでシャワーのように、蝉の鳴き声は降り注いでいたのです。けたたましいくらいに。


それが、最近。

暑さのピークを迎える正午から午後二時くらいまでは、鳴き声を聞かなくなったような気がします。


(妙に静かな昼下がり。不要な外出を控えた街並みに、太陽光だけが燦燦と刺すように降り注いで大地を焼いている。発生した上昇気流が光を屈折させ、地面から炎のような揺らめきが立ち上る。


まるで熱したフライパンの上……)


そんな中、蝉も気候変動に合わせて労働形態を見直し、途中休憩を入れるようにしたのでしょうか?


酷暑の中、鳴き続けるのは体力いるでしょうし。いくら習性だとはいえ、この暑さの中では、ハードワーク過ぎますよね。熱中症になりますって!





――などと発熱で魂が抜けた虚脱状態うつせみのわたしは考えてみたのでした。






【空蝉(うつせみ)】

1. 蝉の抜け殻。

2. (1から転じて)魂が抜けたような虚脱状態。からっぽの状態。

3. 今、この世に生きている人

4. (3から転じて)現世。世間。

5. 『源氏物語』第3帖「空蝉」に登場する女性の通称。

6. 能楽の演目。

7. 俳句における晩夏の季語。

(コトバの意味辞典参照)





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