13祭
「祭じゃぁ……!」
「ようやく開催出来ましたね。」
祭で賑わっている。様々な店が、坂に沿って並んでいる。まだ夕方なのに提灯が照る。
〜♩
楽観の琴と真目の歌声が人々を通り過ぎて、聞こえてくる。
「あいつら二人も説得出来たしなぁ。」
「そうですね。」
食夜と使いが笑う。
「おっ、こんな時に一人迷い込むとは。お前、早く事を済ませて来い。」
「承知致しました。」
――――――――――
「なんで……。こ、こに。」
使いが珍しく困惑している。目先には
「! 良かったぁ……。俺、お前の言った通り、内緒で一人で来たんだ。……けど訳の分からない所に来ちゃった。お前はどっか分かる?」
たはは、と笑った。
笑っている場合では無い。どうすべきか。迷い込んだ奴は問答無用で仕末しろと、主人に言われている。しかし、今回は、無理だ。
「……?どうした。もしかしてお前もここに迷い込んだのか。」
どうしよう。時間だけが過ぎていく。陽が落ちていく。自然と大粒の涙が零れ落ちる。
「! なにも泣くことか?あはは、堅い奴だと思っていたけど、案外そういう所があって良かった。」
布が覆い被さる。背中に腕をまわされる。頭がこつんと傾かれる。ぎゅっと抱きしめられた。
やめてくれ。無理だ。優しくしないでくれ。俺はそんなのを受け取っていい奴じゃない。
「……っ。や……やめ、……ぐっ。」
泣くのを止められない。
「よしよし。」
優しい声色で耳元に言われる。
「に……け…。」
逃げて。
上手く呂律が回らない。
「……ぐっ!」
「ぇ……、?」
服に血が付いている。使いの服にも相手の血が付いた。
「……いたい。」
誰が、誰がこんな事したん……
頭の先に食夜がいた。
「……!」
「どうしたぁ。お前。道草喰いやがって。俺は早く、と言った筈だ。そんな奴すぐ仕末できるだろぉ?」
劇なら今、食夜にスポットライトが当たっているだろう。
「あぁ。そういう事かぁ。お前。そんな奴に情が湧いてるんだなぁ。ははは。分かったぞ。」
地獄のような笑い声。
途切れ途切れに主人の話が頭に入る。
「あ、そうだ。」
食夜がなにか閃いた。
「お前がそいつの止めを刺せ。俺はここで見てる。」
ひっひっ
上手く呼吸が出来ない。
――助けてくれると思って
あの音が蘇る。涙が出る。口の中に入るけど塩っぱさが
「早く。」
食夜が急かす。
「お前、契約の事忘れたんかぁ?」
契約。食夜と出会った時、契約した。してしまった。貴方に一生を注ぐと。
「ごめん……。」
使いが子供みたいに泣きじゃくって、力を振る。
ばたっ
生きるが消えた。
「……。」
「良くやった。お前、ほんとはそんな事思ってないだろぉ?」
「んふふ。主人様にはお見通しでしたか。」
「美味くなる為に、思い出を増やしたんだろ。しかし、俺を呼び起こすとは駄目な奴だ。今日は祭だ。あまり俺を呆させないでくれ。」
「すみません。」
食夜が祭の方へ歩いていく。使いはついて行かない。食夜の姿が消えるのを見送る。使いは崩れ落ちる様に座った。
黙り込む。眼の周りがひりひりと痛む。
――――――――――――――――――
「よぉし。だいぶ集まったなぁ。」
「そうですねぇ。」
人々の動きが止まった。音が止まる。さっきまで夢いっぱいに動いていたのに。
「全部俺のもんだ……!」
「はい。こんな沢山こころが集まったのなら、主人様は大変強うなられるでしょう。」
「あぁ……!」
「ははは!」
「んふふ。」
二人の奇妙な笑い声が祭上に響き渡った。
迷い あ行 @kilioishii
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