12過去

「――。これ見てよ。」

「なんですか。」

 主人様の手の中に綺麗な宝石があった。

「これ、いくらで売れるかな。」

 俺は昔、主人様と二人で平和に住んでいた。

 鳥のさえずり。風の音。平和だった。

「何しているのですか。」

「ふふ、――のために作ったんだよ。首飾り!」

 さっきの宝石を俺の首にかけてくれた。

「ありがとうございます。」

 丁寧にお辞儀する。

 太陽が差し込む。

「ふふっ、――はほんとにできる子だね。ありがとね。ボクの使用人になってくれて。ずっとここにいてね。」

「いえいえ、こんな俺を拾ってくれて幸せです。」

 二人、笑い合う。

「あ〜、けど、まだ――は子供なんだから困ったらボクに頼るように!」

 ポンポンと頭を撫でられる。

「俺はそこらへんのガキとは違うので。一緒にしないでください。」

「ふふっ、面白いね。――は。」

 本当に平和だった。

 目の前が真っ赤になるまでは。

「逃げろ!火事だ!鬼だ!」

 一面火の海。違う世界に入り込んだようだ。

「ははは!楽しいなぁ!」

 火を投げて遊んでいる。あれがきっと鬼。

 住んでいた家の前で木の棒のように立ち尽くしていた。全部壊れた。主人様も。

「あぁ?逃げ残りだ。すまんな、俺もしたくてしてる訳じゃ無いんだ。じゃ。」

 鬼が手を振る。何も入ってこない。壁が倒れて来た。

「……ぐふっ!」

 そうか。このまま死ぬのか……。まぁいいか。主人様の元へ行けばいい。目を閉じた。

「ん?お前、助けて欲しいか。」

 食夜だ。今思えばなぜこんな所にいるのだろう。

「そこにいたら、もう時期死ぬ。」

「……っ。」

 重い。何も声が出ない。

「そうそう。お前の主人、裏切り者だぞ。」

 言葉だけ頭に入ってくる。うらぎりもの?

「あいつはお前を他のところに売って、裕福になろうとしたんだ。」

「そ……んなわけっ。」

 あの笑顔は嘘?頭に酸素が足りない。冷静になれ。

「そうしたから、あいつは仲間に売られたんだ。この火事もそうだ。あの主人が発端だ。」

「だから……」

 食夜が見下す。

「俺の使いになれ。」

 手を差し伸べる。

 苦しい。主人様が裏切った。俺を売る?

「それと、あいつはまだ生きている。

 火事で死んだと思ったか?俺と復讐する時間を増やそうじゃ無いか……!」

「……!」

 手を握る。

「あはは!契約成立だ。」

 食夜が笑った瞬間、壁が崩れて無くなった。そして俺の首飾りを足で踏みにじった。

――――――――――

 紅茶が膝にかかる。

 今思い返すとあいつは食夜は嘘をついていたのか。簡単で子供でも騙せる嘘を。思い返したくなかった。このまま永遠に知らなきゃよかった。あの時、目を閉じたまま眠ればよかった。契約を交さわなければよかった。

「くそっ……!」

 テーブルに拳を突き立てる。上に置いていたマグカップやティーポットも音を立てる。コップが地面に落ちて割れた。

「主人様……ごめんなさい、ごめんなさい……、」

 割れた破片を喉仏に当てる。

 食夜の言っていた言葉が蘇る。

「お前、死のうとしたり、逃げたりしても無駄だからな。ずっとお前はここにいるんだ。身の程を知れ。」

 そうか……、一度死んでみたことがあったな。けど黒い霧に囲まれて、ずっと苦しかった。だから無理だ。

 俺はひたすら迷いを殺すしかない。

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