11茶
「今日の迷いはやらなくてよい。その代わり、一緒に茶でも飲もうてはないか。しばしの休息じゃ。」
「承知致しました。」
何か企んでいるのだろう。何が休息だ。主人といるだけで疲れるというのに。
「では付いてこい。」
――――――――――――――
庭園。金木犀が辺り一面に、咲き乱れている。独特の香りが鼻の奥まで流れ込んでくる。
食夜が先に座る。もう一つの方に指を指す。
「座れ。」
「失礼致します。」
座った。次の動作が分からない。どうすべきか。
食夜が湯気の立つ紅茶を啜る。その場面は何かの、一枚写真かの様だ。
食夜の枝の様な細い手が止まる。目玉がこちらを見る。
「飲んでよいぞ。」
「はい。では、」
紅茶を飲むふりをする。毒を入れられているかもしれない。以前、安易に飲んでしまい血を吐いた。嘲笑われた。
長い沈黙。
時間だけが過ぎていく。逆にこれでいいかもしれない。そう思っていた矢先、食夜が大きな長い口を開ける。
「お前、最近迷いを上手くやれてないじゃ無いか。どうした。お前と会った時は随分、元気にやってたじゃないか。」
心配していない。これは煽っている口調だ。
「すみません。」
「まぁ、俺に美味いものを食わせられるなら、それでいい。」
嘲(あざけ)りながら言われる。嘘つけ。迷いをやりそこなうと、俺を本気で痛めつけてきたのに。
食夜が席を立つ。
「楽しい時間だったよ。また話そうじゃないか。」
低い音が耳に響く。
―――肩に軽いが重い手が置かれる。――――
「?!」
何かされた。頭が渦を巻く。呼吸が早くなる。気持ち悪い。何か見られた。見られちゃいけない記憶を。背中を丸める。視界もぼやける。最初から紅茶なんかに、毒なんて入っていなかった。最近から、さいしょから俺をみるつもりだったんだ。
キーン
使いは倒れ込んだ。生ぬるい紅茶が、テーブルから滴り落ちる。
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