10招待
「本日はお越しいただき、誠にありがとうございます。」
神社の祭で辺りが賑わっている。
「あ゙ぁ?来ただけだからな。」
楽観が使いを野良猫のように威嚇する。
「そんな威嚇すんな。」
真目が楽観を見、朗らかな笑顔で言う。
「それでは、祭を楽しんでください。私は用があるので、席を外させていただきます。では。」
使いがその場から去る。その時、楽観はしっしっと使いを払いのける。
「さてと、迷い込んだ輩も仕末せねば。」
――――――――――――――
「やめてください……。」
小さな女の子が抵抗している。
「ごめんなさいねぇ。その様な要件は承っておりません。」
ごっ
「……ぁ。」
いつもなら、一撃でやれる筈なのに出来ない。疲労が溜まっているからだろう。少女は静かに、横たわって泣いている。
「殺すなら……一思いにやって下さい……。」
「……。ごめんなさい……ほんとうに。」
使いの溢れそうな涙が、夕陽で煌めく。
――終わったか。
その場に倒れ込む。疲れた。土から夏の匂いがする。今すぐここから逃げたい。何故、あんな契約なんかしたんだろう。契約さえ無ければ。後悔が使いを襲う。
「おい。」
後ろから音がする。
「……! 食夜様……。何かご用ですか。」
慌てて重い身体を起こす。
「こんな程度でお前、くたばってるのか。劣ったな。」
鼻で笑われる。呆れた目で。
「まぁよい。そろそろ祭に戻れ。あいつらの相手してやれ。」
食夜が後ろを向く。羽織りが半円を描く様に舞う。
「承知致しました。」
ざっざっ
また背後で、他の草履が砂と擦り合わせている音がする。
おいおい嘘だろ。勘弁してくれ。振り向く。
「ここ、不思議な所ですね。」
一目見ただけで分かった、人間では無い。長い尻尾が付いてる。今日に限って手こずる奴が来るなんて。
最後の力を使う。
「!」
「あれぇ。随分変わった技を使うんやねぇ。なら俺も使お。」
尻尾野郎に、鋭利な破片が宙に浮いている。どうしようか考えついる間に、破片が飛んでくる。使いの頬を斬る。次々と飛んでくる。避けきれない。傷が増えていく。どうしよう。
「はっはっは。そんなもんなん。弱いなぁ。」
「…っか。げほっげほ。」
膝をつく。血が止まらない。手で口を覆っても、血が輪郭を辿り垂れてくる。匂いと味がする。血液の中に浸っている様だ。
「……! なんやこれ……!」
尻尾野郎の影が、自分の身体にまとわりつく。
「んふふ。漸(ようや)く気付きましたか。」
影が口を塞ぐ身動きが取れない。息も苦しい。あんな気味の悪い奴にやられるなんて……。いしきがもうろうとす
「先にいかれたそうですねぇ。僕ももう疲れました……。」
景色が下にぶれる。
ばたっ
――――――――――――
「……い。おーい。大丈夫か。」
眩しい月明かりが、目に差し込む。焦点が合う。誰かがしゃがんでこちらを見ている。
「……だれ…だ。」
「敬語外れてんじゃん。こんなとこで何してたんだよ。」
「はは。面白いな。」
楽観と真目だ。神経の反応が遅い。鼓動が早くなる。筋肉が強張る。
「……どぇ。どうしてこんな所にいらっしゃるのですか。」
急に体を動かしてしまった。痛い。
「暇になったから。もう帰る。」
「結構長い間いたんだぞ?」
「じゃ。」
二人が遠のく。行ってしまう。
「待っ。」
手を差し伸べる。月明かりで、指の凹凸がはっきりと分かる。指の間から淡い光が洩れる。
「あっそうそう。」
楽観が振り向く。月明かりで輪郭がはっきりと写る。
「お前、あいつにこき使われてんだろ?その内身体壊すぞ。それだけ。」
顔をぎゅっとしながら言われる。
――――おい。待てよー。
――――案外優しんだな。
遠くで話す音がする。
下を向く。身体を壊すことなんて、とっくのとうに知っている。今この身体が、それを示している。
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