第4話

「いやあぁぁぁぁぁぁ!!」


 私は自分の悲鳴とともに目を覚ました。


 嫌な汗をかいていた。体がだるい。うまく呼吸ができずに浅く小さな呼吸を繰り返す。


 それでも、目が覚めたことに安堵していた。夢だったことにほっとする。

 あの夢はいったい。上向いたまま、目を見開いていた夫の顔が目に焼きついていた。血で真っ赤に染まった彼は、一目で生きていないことがわかった。生々しい、残骸だった。


 夢でよかった、そう思ってふと気づく。目覚めると隣からかけられる優しい声がないことに。


 隣に、夫はいなかった。


 すっと背筋が寒くなる。見たくない、と思いながらも、抗えない力に押されて視線をずらした。


 血で染まった包丁。血に濡れた私の手。


 どくんどくんと動悸が激しくなる。うまく息ができず喘ぐように浅い呼吸を繰り返す。体の震えが止まらない。


 錆びた鉄のような血のにおいが鼻をつく。べったりとついた血が乾いて手が気持ち悪い。


 これはいったい。いったい何が起きているのだろう。

 もう、何も考えられない。


 これは夢なのか。それとも――――。


 さっき見ていた夢なぞるように、震える足で寝室を出た。



〈了〉


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悪夢の朝に りお しおり @rio_shiori

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