恵方巻に願いを

一視信乃

恵方巻に願いを

 苦手な人がいたんですよ。

 ズケズケものをいう人で。


 出来るもんなら会いたくないけど、しょっちゅう押しかけてくるし。

 どうしても出なきゃいけないイベントに、その人も必ず来ることになってて。 もうユウウツでね。


 イベントは節分の数日後だったから、恵方巻食べてるとき、つい願ってしまったんです。


 「イベントにアイツが来なくなりますように」って。


 ほら、恵方巻って、恵方 (歳徳神のいる方向) を向いて、心の中で願い事をとなえながら無言で丸かぶりすると願いがかなうっていうじゃないですか。

 いつもは、「また来年もママンの手作り恵方巻が食家  内  安  全べられますように」とか、「今年も楽しくカクヨム出来ますように」無  病  息  災とか、他愛ない幸せを願うけど、このときばかりは全力で、「どうせなら、今年一年会わなくて済みますように」って願いましたからね。


 で、イベント当日。

 重い足取りで会場へ向かうと、その人の姿が見えなくて。

 あれって思い、主催のSくんに聞くと、


「Sさんなら来ないよ。今朝急に具合悪いって連絡来たけど、あれ多分仮病じゃないかな。昨夜ゆうべ、Yさん (他の参加者) たちとなんかトラブったみたいで、気まずくて来れないんじゃない」


 という話で。

 マジかーって小おどりしたくなるほどうれしくなりましたね。


 ああ、神さま、願いを叶えてくださりありがとうございます!


 それからも、Sさんと直接顔を合わせることなく、無事次の節分をむかえることが出来たので、また恵方巻を丸かぶりしながら願っちゃったんですよ。


「昨年はありがとうございました。今度は出来れば一年といわず、このまま一生会わずに済むようにしてください」


 まあ、そんなのさすがにムリだろうと思ってましたが、幾日いくにちも経たぬうち、Sくんから電話が来たんです。


「大変、Sさんが事故で心肺停止だって」


 もう本当にビックリしましたね。

 その後Sさんは運ばれた病院でお亡くなりになり、これで一生会うこともなくなったわけですが、さすがにちょっと怖くなりました。


 事故って、恵方巻食べながら願ったせいじゃないよね?

 たまたまだよね、たまたま……。


 真相は神のみぞ知ることですが、気になる方はご自身で試してみてください。

 その際はくれぐれも自己責任でお願いします。

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